第九話

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第九話

 コンビニでアルバイトを始めて二ヶ月が経った。  八木と顔を合わせるたびに告白しているせいか、常連客や従業員たちからちょっとした名物になっている。けれど誰も揶揄ったり莫迦にする人がいないのが救いだ。  八木が品出しをしている横を通るときに真夏が「横顔が素敵です」と褒めると源が「こんなに愛されてるんだから応えてあげなよ」と真夏の言葉を背中を押した。  「……俺はそういうのはいいんで」  「またまた~満更でもないだろ? いまどきジェンダーレスよ?」  「そういうわけじゃないんですけど」  歯切れ悪く答える八木をにこにこと見守った。  八木はやさしい。最初こそ突っぱねられたものの真夏の押しまくりの態度に疲れているのか反論する言葉に棘がない。  さらに源はあとを押した。  「じゃあ一回デートでもしてきたら?」  「それいいですね! そうしましょう、店長!」  「えぇ~それはやだよ」  「でも来週誕生日ですよね? 一緒にお祝いしましょ」  「……おまえなんで俺の誕生日知ってるの?」  「あ、えっと……菊池さんに教えてもらいました」  「ふーん」  八木に訝しげな細い目を向けられ、明後日の方向を見て視線を合わせなかった。  「いいじゃない。誕生日デート!」  「やっぱそうっすよね!さすが源さん!」  年に一度の好きな人の誕生日なら全力でお祝いしてあげたい。あれこれプランを考えていると八木は立ち上がった。  「その日は予定入ってるから無理」  「彼女いないのに?」  「俺にも用事ってもんがあるの」  それだけ言い残すと八木はラックを持って裏へ引っ込んでしまった。少しやり過ぎてしまっただろうか。  でもこの気持ちを止める方法を真夏は持ち合わせていない。
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