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◇◆◆◇ 喜助に言われてこの宿に隠れ住んで20日目になった。 俺は朝早く起きて梅さんの手伝いをしているが、新しい着物や袴は喜助が用意してくれた。 世話をかけて申し訳ないが、俺は密かに悩んでいる事があった。 茶屋にデビューして以来、万願寺での事も含め……毎日男と寝る生活が続いた。 体が疼くのだ……。 張り型に阿片まで使われ、俺の体は男無しでは我慢出来なくなっている。 こっそり自慰をして慰めてはいるが、閉ざされたまま放置された菊門は、熱い塊を欲しがって疼く。 喜助が抱いてくれたら、どんなにいいか……。 寝る時は隣同士に布団を敷いて寝ている。 何度か頼んでみたが、喜助はそういうのは無しだと言って抱いてくれない。 ただでさえ世話になっているのに、わがままを言うのは憚られる。 悶々とする体を持て余すしかなかった。 ◇◆◇ そんなある日、俺は銀次郎さんに言われて手伝いをする事になった。 博打打ちが賭場に集まって宴を開くという事で、酒や膳を出し、空になった器を片付けてくれという事だ。 賭場にはいざという時に逃げ出せるように、裏口がついている。 そこから出たら隣との間に出るが、そこに小さな物置があるらしい。 銀次郎さんと一緒に必要な物を取りに行った。 物置の中はかなり狭く、両脇に棚があってそこに籠や葛篭が置かれている。 兎に角おろさなきゃいけないので、手を伸ばして棚に置かれた葛籠を引っ張った。 ところが葛篭は思ったより重く、支えきれずに落としそうになって慌てた。 「あ、わっ……!」 「おっと」 銀次郎さんが真後ろから葛籠を掴んだ。 「す、すみません……」 太く逞しい腕で軽々と掴んでいるが、背中に体が密着している。 温もりを感じたら、心臓がドキドキして邪な欲が騒ぎ出した。 「危なかったな、無理するな、俺が取ってやる」 銀次郎さんは頼もしい事を言ってくれる。 「はい……」 返事を返して手を離したが、ドキドキはおさまらなかった。 「雪之丞、お前は後ろに下がってな」 「はい……」 言われるままに銀次郎さんの後ろへ回り込んだら、銀次郎さんは力強く葛籠を抱えておろし、俺の前に置いた。 「ほら、この中を開けて使えるもんを出してみな」 「はい」 宴の準備をしなきゃならない。 俺は葛籠の蓋を開けて中をまさぐっていったが、どうしても銀次郎さんの後ろ姿に目がいってしまう。 着物を雑に捲って帯に挟んでいるから、引き締まった太ももが丸見えになっている。 ここなら……誰も来ない。 狭い密室にふたりきりだ。 秘めた欲が爆発的に膨らんできて、我慢出来なくなって銀次郎さんの背中に抱きついた。 「なっ……、なんだ? どうした」 銀次郎さんは掴みかけた葛籠を離し、驚いた様子で聞いてくる。 こんな事、通常なら恥ずかしくてとても言えたもんじゃないが、今は恥ずかしさよりも欲が上回っていた。 「銀次郎さん……、こんな事頼むのは自分でも変だって思います、だけど……俺……、喜助さんは抱いてくれないし、体が疼くんです、お願いします、今ここで抱いて下さい」 「ええっ……、だ、抱くぅ~?」 銀次郎さんは突然の事に狼狽え、声が裏返っている。 「あの……、ひょっとして、男は駄目だとか? そうだったら諦めます」 人によっては男色はできないって場合もある。 俺は内心ハラハラしながら聞いた。 「いや、そうじゃねー、俺は拘りはねーからな、どっちもいける、ただな、お前は慰みものにされて逃げ出したんだ、それでそんな事しちゃマズいだろう」 銀次郎さんは俺の方へ振り向いて言ったが、俺は思い切ってもう一度抱きついた。 「だから余計に……なんです、俺は陰間として生きてきた、さっきも言いましたが、心でそういう事を否定しても体は快楽を欲しがる、俺……もしかしたらって期待して、体を綺麗に保ってます、だけど……喜助さんは駄目だという、体が辛いんです……、辛くて堪らない、だからどうか……お願いします」 必死な思いで頼み込んだ。 「そうか、体は慣らされちまってるもんな、そういう事なら……って思うが、喜助にバレたらマズい、あいつ怒り狂うぞ」 銀次郎さんはわかってくれたが、喜助の事を気にしている。 「黙っていれば分かりません」 内緒にすればいい。 「うーん……、そりゃまぁ~」 銀次郎さんは迷っているが、最早承諾したも同じ同然だ。 「じゃ、いいんですね」 俺は待ちきれなくなり、銀次郎さんの股間に手をやった。 「お、おい……」 銀次郎さんはビクッとして目を泳がせたが、俺はその場にしゃがみこんだ。 「俺、慣れてるから……」 着物に手を突っ込んで褌のわきから手を入れたら、銀次郎さんは逃げるように腰を引いた。 「ちょっ……、あっ……、ま、待て」 喜助の事がチラつくんだろうが、俺はもう待てない。 萎えたイチモツを引っ張り出して口に含んだ。 「おおっ……、そんな事もできるのか」 銀次郎さんはひと際驚いていたが、俺を引き離そうとはしなかった。 俺は雄臭い匂いに煽られ、ひと息に根元まで咥え込んだ。 「っ……、あぁっ、た、堪らねぇ、俺な、それをやられんのは初めてだ」 銀次郎さんは体をかたくして意外な事を言った。 どっちもいけると言ったし、遊び慣れていると思ったが、実はそうでもないらしい。 そんな事を聞いたら、余計にやる気が満ちてくる。 舌を駆使して舐め回していると、竿は見る間に張りを増していった。 「くっ、き、効くぅ~」 銀次郎さんは拳を握り締めて耐えている。 イチモツは淫液を零し、焦れたようにビクつき始めた。 「や、やべぇ、出ちまう」 初めての口淫は刺激が強すぎたようだ。 竿を解放して立ち上がり、抱きついて胸板に顔を埋めた。 「銀次郎さん……」 お願いしますと言いたかったが、ここまで来たら……あとは銀次郎さんに任せた。 「あいつがお前の事を大事にしてるのはわかる、俺は今からやっちゃいけねー事をやる、雪之丞、お前の為だ、お前は喜助に惚れてるんだろ? 言わなくてもわかる、それで俺に頼んでくるって事は……本当につれぇんだ、俺は知人、友人として……お前を楽にしてやる」 銀次郎さんはやっぱり優しい。 着物の裾を捲りあげてきたので、俺は自ら尻を晒し、棚を両手で掴んで尻を突き出した。 「通和散は用意してないので、唾をつけて入れてください」 「おう、わかった」 ひとこと言ったら菊門に指が触れてきて、唾が塗り込められていったが、それだけで既に感じていた。 「あ……、はぁ」 僧侶達の煩悩を吸い取った体は、無節操に欲望を垂れ流し、期待と興奮で満ちている。 「じゃ、やるけど……本当にいいんだな?」 銀次郎さんは確かめるように聞いてきた。 「はい」 返事をしたら熱い塊があてがわれ、ゆっくりと中に入ってきた。 「はっ……くっ!」 体はこれを欲していた。 久しぶりに得た感触に、全身がゾクリと震えあがる程感じていた。 思わず声をあげそうになり、咄嗟に手で口を塞いだ。 「おお……、こりゃ……いい」 銀次郎さんは俺の腰を持ってイチモツを突き入れてきた。 「ふっ……、うっ、んんっ!」 突かれる度に快感が押し寄せ、銀次郎さんの動きに合わせて腰を動かした。 「お前……上手い事腰を使うな、しかもこの感触……なるほど、坊主が身受けした理由がわかった、こいつは気持ちいい、この尻も……色白でやわらけぇ、雪之丞……もういっちまいそうだ、中に出してかまわねーか?」 銀次郎さんは感心したように言って動きを早めていったが、猛々しいイチモツが体内を抉りあげ、俺もイキそうになってきた。 「は、はい……、大丈夫です」 「よおし、じゃ、おもいっきしいくぜ」 反り返るイチモツが体内を強く抉りあげ、溜まった熱が股間に集中していた。 「っ、んんっ!」 銀次郎さんの腰が尻に密着し、脈動を感じた。 それに呼応するように俺のイチモツが脈打ち始め、俺は久々に快楽の極みに達していた。 「おっ……、なんか締まるぞ、はあ~堪らねぇ」 俺が子種を放つと、菊門が締まる。 意図してやってるわけじゃないが、銀次郎さんは興奮気味に繰り返し突いてきた。 しばし後、静寂の中でイチモツが抜け出した。 「やっちまった……」 銀次郎さんは萎えたイチモツをしまいながら、悔やむように呟いた。 俺も着物を直して銀次郎さんの方へ向き直った。 「こんな事をさせてすみませんでした……、わがまま言って申し訳なく思います」 冷静になると、無理を言って交接をさせてしまった事が申し訳なく思えてきた。 「馬鹿だな、俺は後悔してねーよ、雪之丞……」 銀次郎さんは俺の腕を掴み、ぐいと引き寄せて両腕で抱き締めてくる。 「優しいんですね……、顔に似合わず」 欲望が満たされて気持ちが緩み、つい本音が口をついて出ていた。 「おい、それを言うか? なははっ、ま、でもよー、優しいだなんて言われちゃ悪い気はしねぇ、こっちぃ向きな」 銀次郎さんは笑い飛ばし、俺の顎をぐいと引き上げる。 「あ……」 背が高いから見上げる格好になるが、そのまま唇が重なってきた。 「ふっ……、喜助には内緒だ、内緒でお前の相手をしてやる」 銀次郎さんは軽く唇に触れて顔を離し、悪戯っぽく笑って言った。 「じゃあ、これからもお願いして……いいのですか?」 「ああ、こっちこそ、いい思いができるんだからな、物置も悪くねーが、あいつが留守ん時に俺んとこに来な、俺は大抵賭場の2つ向こうにある座敷にいる、お前の欲求不満を解消してやるよ」 後ろめたさは拭えなかったが、この不埒な体を鎮めてくれるなら、有り難くお願いしたい。 「はい、助かります」 「へへっ、事が事だけに……なんだかおかしな話だが、喜助が相手をしねぇのも悪い、よし、じゃあ、すっきりしたとこで、真面目にやる事をやるか」 俺達はさっき体を交えたばかりなのに、銀次郎さんはそんな事を感じさせぬ口調で清々しく言ってくる。 それから俺は、真面目に宴の準備に取り掛かった。 ◇◆◇ 俺は梅さんの手伝いをしながら、銀次郎さんと関係を持つようになり、10日ばかりが過ぎていった。 その間に賭場で度々宴が行われ、俺は梅さんの手伝いをした。 喜助とは特に変わりなくやっていたが、ある日の昼下がり、この日俺は銀次郎さんの座敷にいた。 こんな事をするのも、今や当たり前のことになっている。 今朝方、喜助は出かけて行ったので、俺は銀次郎さんと布団の中で抱き合い、仰向けで銀次郎さんを受け入れて淫行に耽った。 「っ……、んんっ!」 銀次郎さんの座敷に勝手に入ってくる者はいないが、あまり大きな声を出すのはマズい。 貫かれる衝撃が甘美な快感をもたらしたが、口を引き結んで堪えた。 「雪之丞……、俺はどっちかってぇと女郎屋に行く方がいいと思ってた、でもよ~、お前を抱いてちょいと気が変わった」 銀次郎さんは動きを止めて話しかけてきた。 「そう……ですか、それって……良かったのかな?」 これを機に陰間茶屋に通うようになったとしたら、俺の責任だ。 「いいも悪いも、そんなもんは端からねー、俺は自分がやりてぇようにやる」 「はい……」 銀次郎さんはいかにも博徒らしい、粋な台詞を口にする。 「けどよ、どうして喜助はお前を抱こうとしねぇのか……、おめぇのことを気に入ってるから助けたんだ、だったらよ、普通は抱くよな?」 万願寺の事は喜助から聞いたようだが、そこのところは銀次郎さんも相変わらず知らないようだ。 「何か訳があるみたいですが……」 「ああ、ま、誰しも事情を抱えて生きてるもんだ、だからよ、俺は……喜助が自分から話す気になるまで待つつもりだ」 銀次郎さんは無理に聞き出すつもりはないらしい。 「おう銀次郎、いるだろう?」 その時、障子越しに喜助の声がした。 「おお、ちょっと待て!」 まさかな事態に銀次郎さんは慌てて体を離し、起き上がって素早く脱いだ着物を羽織った。 俺も焦って起き上がり、同じように脱いだ着物を掴んだ。 「銀次郎、そこに雪之丞がいるよな?」 けれど、喜助は障子を開けようとはせず、俺の事を聞いてきた。 「喜助……、その……」 銀次郎さんは雑に着物を羽織ったまま、帯を適当に巻いてる最中だったが、手を止めて言葉に詰まった。 「いいんだ、今の話、お前らが話してた事だが……聞かせて貰ったぜ、銀次郎心配するな、怒りゃしねぇよ」 俺が銀次郎さんと体を交えている事は、既に喜助にバレていた。 しかも、喜助は障子越しにさっきの話を盗み聞きしていたようだ。 「っ……、喜助」 銀次郎さんは決心したように立ち上がり、障子の方へ歩いて行くと、ゆっくりと障子を開けた。 「やっぱり……いたか」 喜助は俺を見てため息混じりに言った。 「喜助、すまねー、あのな……、言い訳したかねーが、雪之丞は今まであんな暮らしをしてただろ? だからよ、その~ムラムラしちまうんだ、お前が抱いてやらねーから、俺が……代わりに……」 銀次郎さんはバツが悪そうに頭を掻いて、矢継ぎ早に説明した。 「そうか……、いや、お前なら構わねー、雪之丞がそれで満足するなら、相手をしてやってくれ」 俺はてっきり怒るかと思ったが、喜助は意外な事を言う。 何故……どうして腹が立たないのか……。 いや、喧嘩になるよりは遥かにマシなのだが、俺は喜助が俺と銀次郎さんの事をあっさり認めたので、正直ショックを受けていた。 「ちょっと待て、喜助……、お前、腹が立たねーのか? おめぇ、雪之丞の事を守りてぇんだよな、って事は惚れてるんだろ? なのに寝取られて構わねーって、そう言うのか?」 銀次郎さんも喜助が怒らない事を変だと思ったらしく、俺が聞きたかった事を問いかける。 「ああ、そりゃ……、ただ、俺はそっちは勘弁して貰いてぇ、お前なら雪之丞を痛めつけるような真似はしねぇ、雪之丞を可愛がってやってくれ」 喜助は俺の事を銀次郎さんに任せるようだ。 そこまで言うって事は、どこかに惚れた女でもいるのか? だけど、それなら俺を匿うのはおかしい。 「お前……、一体どうしてなんだ、惚れてるなら抱いて当然じゃねーか、それを勘弁してくれだと? へっ、ナニが役に立たなくなっちまったとでも言うのか?」 銀次郎さんは冗談っぽくニヤリと笑って聞いたが、それも俺の聞きたい事だった。 「そうだ」 喜助は涼しい顔をして頷いた。 「あのなー、嘘つくんじゃねー、いい加減なんなのか話せ」 銀次郎さんはそんな事を真に受ける筈がなく、少し苛立った様子で詰め寄った。 「おめぇ、さっき言ってたじゃねーか、俺が自分で話す気になるまで待つって」 喜助はあくまでも理由を話そうとはせず、逆に言い返す。 「あ、お、おう……」 銀次郎さんは痛いところを突かれ、急に勢いを無くしてしまった。 「あのよ、じゃあ正直に言うわ、雪之丞に手ぇ出したのは腹が立つ、ここに来た時は一瞬殴ってやろうと思ったが、お前らが話をするのが聞こえてきた、だからよ、聞き耳を立てて聞いてみたんだ、で、おめぇはこの雪之丞に……面白半分で手ぇ出してるわけじゃねーってわかった、それにお前の気持ちも……俺は嬉しかった、な、銀次郎、俺はな、お前との絆を壊したかねー、だからここはこれでおさめろ、それとも……俺とやりあいてぇって言うなら別だがな」 喜助は腹を立ててないわけじゃなかった。 何だかホッとしたが、俺がずっと知りたいと思っている事は頑なに話さない。 「そうか……、ああ、わかったよ、じゃ、雪之丞との事は認めるんだな?」 銀次郎さんは喜助の気持ちを知り、この場は退く事にしたようだ。 「ああ、お前だけ、特別に認めてやる」 喜助は銀次郎さんと俺が付き合う事を許可した。 「わかった、この話はこれでしまいだ、雪之丞、ひとまず喜助と一緒に自分の座敷へ戻りな」 こんな事になって、喜助と2人きりになるのは……気まずいなんてものじゃ済まないが、銀次郎さんにこれ以上迷惑はかけられない。 「はい……」 「雪之丞、来な」 銀次郎さんに返事をしたら、喜助が呼んだ。 「銀次郎さん……、すみません」 俺は銀次郎さんに頭を下げて立ち上がり、帯を拾いあげて羽織っただけの着物を手で抑え、喜助に向かって歩いて行った。
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