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◇◆◆◇ 俺は急いでここを出る事になった。 翌日の日が暮れた直後、俺は着替えなどを風呂敷に包み、喜助の後について宿を出た。 外はすっかり日が暮れているが、晩御飯は梅さんが作ってくれた夕飯を早めに食べた。 その後で賭場を後にしたのだが、日が沈んだ後に出立する事にしたのは、目立たないようにする為だ。 新しい宿には、一里近く歩いて到着した。 街からかなり離れた場所にある。 ここは銀次郎さんが世話になっている『い組』という博徒の親分の所有物らしい。 喜助に詳しい事を聞いたら、『い組』というのは、博徒連中を集めて賭場を開いたりしているが、表向きは火消しをやっているという事だ。 だから、町の人達から一目置かれる存在で、皆から慕われているという。 ここも二階建てになっていて、俺はまた二階の座敷を借りたが、面白い事にここはズラリと立ち並ぶ宿の屋根が全部繋がっていた。 この辺りは街道に近い事もあって何軒も宿屋が連なって建っている。 旅人が素泊まりするような安宿ばかりだが、喜助は親分から、いざという時は屋根伝いに逃げろと、そう言われたらしい。 そこまで気を使ってくれるなんて、俺はその親分の名前を聞かなきゃ気が済まなくなった。 喜助に聞いたら、松五郎だと言う。 松五郎親分はここをただ同然で貸してくれたらしい。 喜助が親分の組に入ると言ったので、それもあってそうしてくれたらしいが、親分には感謝の気持ちでいっぱいだ。 とにかく、今夜からここで暮らす事になるが、銀次郎さんはここへ通ってくると言っていた。 喜助がいてもかまわずに来ると言い、喜助はそれを承諾したが、俺は複雑な気持ちだった。 安宿だから座敷はガランとしていて何も無いが、唯一着物をかける衣桁が隅に置いてある。 「ここも風呂と厠は共同だが、今は泊まり客がすくねぇからな、気ぃ使わずに入れる」 喜助は窓際に胡座をかいて座ると、ざっと説明してくれる。 「そうですか、でも食事は……外になりますよね?」 俺はふと食事の事が気になった。 ここには炊事場はなさそうだ。 「そうだな、食いに行くのは気が乗らねぇが、そこらに屋台のそば屋があるし、後は一番近場にある飯屋だな」 気が乗らないのは俺も同じだった。 もし岡っ引きや、その筋に頼まれた輩に見つかったら、喜助は捕まって番屋へ連れて行かれるだろう。 「別々に行きませんか? それなら万一俺が見つかっても、あなたに迷惑がかからないし」 一緒に外をうろつくのはマズい。 「馬鹿を言うな、お前を守る為に連れ出したんだ、そんな見つかったりしたら、元も子もねーじゃねぇか」 けど、喜助はあくまでも俺を守ろうとする。 「喜助さん……、訳は話せないと言いましたが、俺はどうしても納得できない、こんな危ない事……、俺はただの陰間です、そんな人間をそこまでして庇うのは……どう考えてもおかしい」 俺も銀次郎さんと同じで、無理に聞き出すつもりはなかったが、あまりにも危険過ぎるのでつい聞いてしまった。 「ああ、おかしい事を敢えてやってるんだ、だからよ、俺はな、変人だ、変わり者で通ってるんだよ」 喜助はまたはぐらかした。 「そうですか……変わり者……」 変わり者でもなんでも構わない。 訳を話せないと言うなら……俺は何度でも試してやる。 「あの、それじゃ改めてお願いします、俺を……抱いてください」 断られるのを承知で言った。 「雪之丞……、またそれか、言っただろ? それは無しだ」 喜助はうんざりした顔で同じ台詞を言う。 「好きな人でもいるんですか? 女の人とかで……」 これも既に聞いた事だが、もしそうなら納得できるし、悲しいけど、それで踏ん切りがつくから楽になれる。 「いいや、いねーって言っただろ」 でも、やっぱりおんなじ事を言う。 なんだか……無性に悲しくなってきた。 「喜助さん、ほんとの事を言います、俺、喜助さんの事……好きです、本気なんです、だから抱いて欲しい、それでも駄目ですか?」 こんなに近くにいるのに、何度も頼んでるのに……心が痛い。 「雪之丞、体を交える事が惚れてるって事じゃねぇ、そりゃ……好きならそうなって当たり前かもしれねぇが、俺は変人だから、普通とはちょっと違う」 喜助は説教めいた事を言ってすっとぼけ、頑なに拒むが、俺は包み隠さぬ本心が聞きたかった。 「じゃあ、喜助さんも俺の事を?」 「ああ好きだ、じゃねぇと、こんな真似はしねぇよ」 あっさり好きだと言ったが、俺がこれだけ頼んでも抱いてくれないのに、本気で言ってるのか疑いたくなる。 「それは本当ですか? 好きって言うのは……単に好感が持てるって事ですか?」 「あのな~、ガキの癖にマセた事を言うな」 喜助は俺を子供扱いしたが、俺は色を売る仕事をしてきた。 マセていて当然だ。 「確かに俺はガキです、でも……色んな相手と寝た、惚れた腫れただとか、色恋沙汰の事は……少しはわかります」 「しょうがねーな、じゃ話すわ、菖蒲でお前を初めて見た時……綺麗だと思った、男に綺麗だなんて言ったら、お前は腹を立てるかもしれねぇが、『雪之丞か……なるほど、雪のように白い肌をしてる』って、そう思った、俺は男に惚れた事はなかったが……お前には惹かれた、惚れちまったんだ、だから足繁く通った」 喜助は片膝を立てて座っているが、膝へ腕を乗せて言った。 真剣な表情をしているし、今のは嘘ではないようだ。 だったら……拒まない筈。 無言で立ち上がり、喜助のすぐわきに行って腰をおろし、腕に縋りついて寄りかかってみた。 「おい、なにして……」 喜助は戸惑っているが、俺は怒られようが、突っぱねられようが、そんなのはどうでもよくて、完全に開き直った心境だった。 「惚れてるなら……嫌じゃない筈」 「そりゃ……嫌じゃねぇ、っ……、雪之丞」 喜助は少し間を置いて俺を抱き締めてきた。 「……喜助さん」 このまま抱かれても構わない。 いや、むしろ、俺はそれを望んでいる。 喜助は顔を近づけてきて、俺は静かに目を閉じた。 「わりぃ……」 だが、唇が触れる寸前に体を離してしまった。 「やっぱり……駄目なんですね」 期待しただけに、俺はものすごく落胆した。 「すまねー、勘弁してくれ……」 喜助は俯いて申し訳なさそうに謝る。 「そんな……」 文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、真顔で目を伏せて言われたら……責める事は出来なかった。 「ま、とにかくだ……、ほとぼりが冷めるまで色々とめんどくせぇが、お前が陰間からただの町人に変わるまで、辛抱するしかねぇ」 喜助は気を取り直すように話題を変えた。 「ただの町人……」 俺をただの町人にするつもりらしいが、果たして……そんな事が叶うのだろうか。 「ああ、ほら、賭場にいた婆さん、あの婆さんも花魁だったんだぜ、そこまで上り詰めた人間が、今は見る影もなく炊事場で下働きだ、ま、どれだけチヤホヤされたとこで、あんな世界にいてもいいこたぁねぇ、地味でも普通に暮らす方が何倍も楽しいんだ、あの婆さんはそれを知ってるから、ああして下働きをするようになった」 確かに、梅さんはイキイキと働いているが、それは梅さんだから出来た事だ。 俺の体には、陰間としての暮らしぶりが染み付いている。 「俺も……楽しみを見つける事が出来るかな」 体の欲求を蹴散らす程の楽しみ……。 そんな物があるのか、俺には自信がない。 「雪之丞、俺がい組に加わっても、俺のそばにいろ、なにか仕事を見つけてやる、な、一緒に暮らそう」 喜助はこのまま2人で暮らすつもりでいるようだ。 「一緒に……ですか?」 俺は先の事など、何も考えてなかった。 喜助に迷惑をかけちゃ悪いと、一番にそれを考えていたが、まさかそんな事迄考えていたとは……思ってもみなかった。 「嫌か?」 「い、いいえ……、そんなわけは」 抱いてくれないのは悲しいが、それでも喜助とずっと一緒に暮らせると思うと、ものすごく嬉しい。 但し、不安なのはこの体だ。 今は銀次郎さんに抱かれてるからいいが、もし銀次郎さんに好きな女でも出来て喜助と2人だけになったら、俺は悶々とした毎日を送る羽目になる。 「俺はお前の面を毎日拝みてぇ、そん時になったら長屋を借りる、毎日顔を見て……なんでもねぇ話をして……一緒に飯を食って、俺はそれだけで十分だ」 顔を見て、たわいもない話をして、たったそれだけで十分……。 「そんな事で……満足なんですか?」 「ああ」 「本当に変わったお人だ……」 俺は喜助がすっとぼけて誤魔化してるんだと思ったが、先々の事を真剣に話し、その上で言うんだから……喜助は本当に変わり者なのかもしれない。 「そんな真面目な面ぁして言うなよ、笑えるじゃねぇか、へへっ」 喜助は照れ臭そうに笑ったが、俺はそっちに関しては全然自信がない。 「あの、でも……、俺は我慢できるかどうか」 「銀次郎と付き合やいい、あいつは信頼出来る奴だ、それに遊び好きだが所帯を持つような性分じゃねぇ、当面は奴で事足りるだろう、ただな、俺は……お前には普通の生活を送れるようになって貰いてぇ、普通に暮らしていれば、そのうち陰間として染み付いた悪癖も消えていくだろう、まずは一歩踏み出さねーと、なにも変わりようがねぇからな」 喜助は俺を銀次郎さんと付き合わせ、時が経って自然に欲求が薄らぐ事を期待しているようだ。 銀次郎さんがどこまで付き合ってくれるかわからないが、そんな風に言われたらそうするしかないだろう。 たとえ抱いてくれなくても俺は喜助と共にいたい、その気持ちに偽りはないんだから。 それに、もしも奇跡が起きて色欲から解放されるなら……それを望む心はこんな俺でもまだ心の中のどこかに残っている。 上手くいくかどうか、今はまったくわからない。 わからないが、喜助が言ったように……まずは一歩を踏み出す事が大事だと思った。 「自信はないです……、でも……今の話を聞いたら……、俺、やってみます」 元々は腐海に沈む身だったんだ。 駄目だったとしてもいい。 喜助に従って挑戦してみる事にした。 ◇◆◇ 新しい宿での生活は、特に不自由なく過ごせた。 移り住んで3日目の夜、銀次郎さんがやってきた。 座敷に上がって貰い、とりあえず茶を振舞ったが、俺は落ちつかない気分だった。 行灯の明かりが照らす中で、銀次郎さんは近況や岡っ引きの動向について語り、喜助は真面目な顔で耳を傾けていた。 俺は2人のそばに座っていたが、岡っ引きはあれから賭場には来てないらしい。 ほっとしたが、銀次郎さんは話が一段落すると、俺に体を綺麗にしてこいと言った。 ここでやるつもりだ。 こうなる事は覚悟していたが、喜助は承諾したわりには何気に顔色を曇らせている。 「なんだ、嫌なのか?」 銀次郎さんが喜助に聞いた。 「いーや、やりたきゃやれ、俺はちょいと出てくるわ」 喜助は立ち上がって座敷から出ていこうとした。 「待ちな」 けど、銀次郎さんが身を乗り出して喜助の腕を掴んで引き止めた。 「なんだ」 喜助は銀次郎さんを睨みつけている。 「逃げるな、お前はなんともねぇんだろ? だったらここにいろ、それか……嫌なら嫌だとはっきり言え」 銀次郎さんは意地悪な事を言って喜助に返答を求める。 やはり銀次郎さんも喜助の本心を知りたいんだろう。 「嫌だとは言ってねぇ、お前が雪之丞を可愛がるのは、お前の勝手だからな」 「だったらいても平気だよな? それともなにか、恥ずかしくて見てられねぇ程、ウブだって言うのか?」 「なわけあるか……、わかったよ」 喜助はここにとどまる事にしたらしいが、投げやりに言って元いた場所に座った。 こんな状況で気乗りするわけがなかったが、銀次郎さんは俺に向かって早くしろと急かす。 銀次郎さんも喜助も、俺にとっては2人共大切な人間だ。 指示に従う事にした。 体を綺麗にし、寝衣を着て座敷へ戻ると、喜助は座敷の隅に火鉢を置いて煙管を吹かしていた。 真ん中には布団が敷かれている。 「おお、こっちへ来な」 銀次郎さんは布団のわきに座って手招きする。 「はい」 喜助はチラッと俺を見たが、すぐに顔を逸らした。 どう見ても不機嫌そうだ。 重い気持ちを引きずりながら、銀次郎さんのそばに行った。 「ほら、座れ」 銀次郎さんは腕を引っ張ってきた。 よろついて銀次郎さんの真横に座ったが、喜助には背を向ける格好になった。 喜助は一体どんな気持ちでいるのか、不安で仕方がない。 「へへっ、お前が出て行っちまって、欲求不満になっちまったぜ」 銀次郎さんは喜助がいても歯に衣着せぬ物言いをする。 肩を抱いて顔を近づけてきたが、喜助に見られながらやるなんて、ちょっとした拷問だ。 でも、そもそも……俺が銀次郎さんを誘った。 だから、自業自得とも言える。 腹を据えて目を閉じたら、唇が重なってきた。 艶かしい感触を感じると、否が応でも気分が昂ってくるが、火鉢に煙管を叩きつける音がした。 一服吸い終えて、煙草の葉を入れ直しているんだろう。 喜助の事を考えていたら布団に押し倒され、銀次郎さんは手早く着物を脱いでいった。 「喜助が気になるか」 不意に聞かれてギクッとした。 「い、いえ……」 「ほんとか?」 「はい……」 褌だけの姿になって掛け布団を引っ張ったので、返事をして一旦退き、改めて2人で布団に入った。 掛け布団の中に潜り込んだら、銀次郎さんは俺の上に被さってきて、温かな肌の温もりがじかに伝わってきた。 体の重みをずっしりと感じ、肌をまさぐられて吐息が漏れた。 いくら躊躇しても、体は敏感に反応してしまう。 だけど、掛け布団に潜っていれば喜助の事を気にせずに済む。 「女にゃ女の良さがあるが、へへっ、これはこれでいい」 銀次郎さんは下へ体をズラすと、胸の突起に唇をあてて舐め回し、片手で俺のイチモツを扱いてくる。 口淫をした時は初めてだと言ったが、それは別として、結構遊んでいると思われる。 舌先で突起を弾き、焦らすように軽く歯を当てがったり、親指の腹で亀頭を撫で回すやり方は、付け焼き刃で出来る事ではない。 巧みなやり方をされたら、無節操な体は急激に熱を帯び始める。 掛け布団を頭まですっぽりと被り、感じてるのを喜助に見られないようにした。 「さてと……、ちょいとはえーが、下をやるぞ」 銀次郎さんは手を止めて言うと、指に通和散を塗って菊門に指を入れてきた。 「ふ、う……んんっ」 無骨な指がツプッと中に入り込み、反射的に体に力が入った。 「へっ、指に食らいついてるぞ、よし、これが邪魔だ」 銀次郎さんは掛け布団をガバッとはぐったが、これじゃあ喜助に見えてしまう。 「布団をかけて……ください」 丸見えなのは耐えられないので、銀次郎さんに頼んだ。 「なんだぁ? ははーん、喜助に見られたくねーんだな? おい喜助、見てるか~?」 銀次郎さんは俺には答えず、喜助に声をかけた。 恥ずかしいような気まずいような、自分でもよくわからない気持ちになり、変な汗が噴き出してきた。 「馬鹿、そんなもん……いちいち見るかよ」 気になって喜助を見たら、煙管を片手に持って呆れた顔で言った。 「へっ、強がってやんの、ほんとーは嫌な癖に、何にこだわってるのか知らねーが、素直じゃねぇな」 銀次郎さんは喜助をやたら煽っている。 「うるせぇ、ごちゃごちゃ言わず、さっさとやりやがれ」 喜助は苛立ち、火鉢に煙管を叩きつけて言った。 「おう、言われなくともやるぞ、雪之丞の体は堪らねーからな、へへっ」 銀次郎さんは掛け布団をわきへ退かし、足を割って腰を入れてきたので、交わるところを喜助にモロに見られてしまう。 「くっ……」 堪らなくなって腕で顔を隠した。 「雪之丞、おめぇもどうした、いつもみてぇに欲しがれ」 銀次郎さんはこの状況を楽しんでいるのか? 何だかわからないが、笑みを浮かべて言ってくる。 けれど、そんな事……喜助の前で言える筈がない。 「……無理です」 「まったく~、2人してしょうがねー奴らだな、じゃ、いくぞ」 銀次郎さんは呆れ顔で言うと、イチモツをあてがって中に押し入れてきた。 勢いをつけて押し込むから、体が強ばって腕が顔から離れた。 「っ……! うぅっ」 「おいコラ、乱暴な真似をするなよ」 喜助が注意するのが聞こえてきたが、俺は喜助を見る事は出来ず、反対側に向いた。 「心配なら、お前が抱いてやれ」 銀次郎さんは性懲りも無く喜助を煽る。 「俺は……」 喜助は言葉に詰まった。 「まったく、ややこしい奴だぜ、なあ雪之丞? あぁ~堪らねぇ」 銀次郎さんは苦笑いを浮かべ、腕を立てて本格的に動き出した。 熱い塊が体の中を摩擦する度に、快感が湧き出して体中に広がっていく。 「ふっ……んんっ」 背中を抱き締めたい衝動に駆られたが、喜助の前でそれはやりたくない。 「おい、どうした、いつもみてぇに抱きつけ」 なのに、銀次郎さんが言ってきた。 「今は……すみません……」 今だけは勘弁して欲しい。 「んだよ~、さっきから……、ああそうかい、じゃ、嫌でもよがらせてやる」 銀次郎さんは苛立ち、弱点に狙いを定めて突いてくる。 「くっ……! あっ、あ、あの、あっ」 嫌でも意識が引き込まれる。 銀次郎さんの腕を掴んで堪えようとしたが、銀次郎さんは一向にやめようとしない。 「背中を抱け、そしたら止まってやる」 「わ、わか……りました」 これ以上やられたら、我を忘れて声をあげてしまう。 両腕で背中を抱き締めた。 「それでいい……、なあ喜助、雪之丞を俺にくれ」 銀次郎さんは俺をよがらせて納得したのかと思ったが、喜助に向かって突拍子もない事を言った。 「あのな、やらせてやってるんだ、それで満足しろ」 喜助はさらっと受け流す。 「お前は一緒にいるだけだ、雪之丞は欲求を溜め込んじまうじゃねぇの、それともなにか、俺がこうして会いに来て、目の前でヤルのをずっと見続けるって言うのか?」 「ああ、お前だから許可したんだ」 「そりゃあな、そんだけ信頼してくれてるのは嬉しい、けどよー、いくら訳ありだからって、お前はこいつの事を好きなのに、指をくわえて見てるのか?」 銀次郎さんはどうしても納得がいかないようだが、この状況からすれば……問い詰めたくなるのもわかる気がする。 「おう、見たくはねーが、お前が見ろって言うなら、いくらでも見てやるぜ」 喜助は堂々と言った。 「はあ~あ、そうかい……、雪之丞、もう気にせずにやるぞ」 銀次郎さんはため息をついて再び動き出した。 大きな体に包まれて共に揺れ動くうちに、意識が淫らに染まっていった。 かろうじて声だけは堪える事ができたが、銀次郎さんがいき果てた瞬間、俺もイキ果ててしまい、快感が突き抜けて呻き声が漏れた。 「ぐっ……うぐぅっ」 「あー、いっちまった、お前もか、くう……、この搾り取られる感じ……」 銀次郎さんは顔を顰めて子種を放ち、貪るように唇を重ねてきた。 脈動を感じながら、唇が優しく触れてくる。 至福のひとときだ。 しばし静寂の時を迎えた後、銀次郎さんはゆっくりと繋がりを解き、手拭いを出して後始末をし始めた。 「しっかし……なんだな、誰かに見られながらやるのは初めてだが、こういうのも悪くねー」 後始末を終えたら、喋りながら脱いだ着物を着ていったが、満足した様子で悪くないと言う。 「俺はまぁー、色々経験したからな、人がやってるのは見た事がある、ただな、雪之丞はお前にゃやらねーぞ、こいつは俺と共に暮らす、俺のものだ、お前は雪之丞の相手をして、雪之丞を満足させてやれ」 喜助も経験豊富なようだが、俺の事についてはあくまでも自分のものだと言って念押しをする。 「ああ、ま、わかったよ、抱いてくれというなら喜んで頂くぜ」 銀次郎さんはこれからも通ってきてくれるらしい。 着物を気直して、『また来る』と言って座敷を出ていった。 ◇◆◆◇ 銀次郎さんが初めてやって来てから、10日あまりが過ぎた。 岡っ引きがここを嗅ぎつける事もなく、俺は喜助と2人で平穏な毎日を過ごしている。 銀次郎さんはと言えば、一日おきにやってくる。 喜助がいない時もあったが、いる時は見られながら体を交えた。 俺は喜助の前で乱れるのを避けたかった。 ひたすら耐えて声を押し殺していたが、銀次郎さんは来る度に大胆になっていく。 三度目に来た時は、俺に四つん這いになるように言い、腰を激しく打ち付けてきた。 硬い肉塊が体内を突き上げ、イキ果てて快楽に呑まれてしまった。 「ん、んああっ!」 とうとう声をあげていた。 「やっと声を出したか、へっ、喜助、どうよ?」 銀次郎さんは深く貫いた状態で止まり、得意げに喜助に問いかける。 「やるじゃねーか、なかなかな腕前だ」 喜助はさも普通の事のように言って褒める。 「だろ? へへっ、雪之丞はよ、売れっ子だったらしいが、この穴を体験すりゃ、誰しももう一度って思うだろう、それを独り占めできるとはな」 銀次郎さんは俺が陰間だった時の事を口にすると、緩やかに動きだした。 「ああ、だとしても……いずれはそういう事を断ち切る予定だ、だからよ~銀次郎、今のうちに楽しんどけ」 喜助は先々の事を銀次郎さんに明かす。 「断ち切るのか? もったいねー、しかし……お前も頑固だからな、よし、それじゃシメにいくぞ」 銀次郎さんは尻臀を持って再び激しく突いてきた。 「あっ、ああ、あっ!」 もう声を我慢する事が出来なくなり、銀次郎さんが果てるまで、俺は喜助の前で喘ぎ声をあげていた。 快感が頂点に達し、心地良い脱力感の中で静寂が訪れる。 銀次郎さんとの逢瀬はそこで終わりとなる。 それが毎度の事となっているが、喜助は俺が感じて喘いでいても……淡々と成り行きを見守っているだけだった。
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