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◇◆◆◇ 次の休みの日が楽しみだ。 楽しみがあると、仕事にも張合いがでる。 「あー、ちょっと……小谷君」 デスクに向かって書き物をしていたら、背後から声がかかった。 「はい……」 振り向けば係長が立っている。 まさか……と思った。 「ここじゃあれだ、ちょっと休憩室に行こうか、車椅子は押すよ」 「あ、はい……」 係長は車椅子のハンドルを握って言ったが、やっぱり昨日見られたのがマズかったんだろうか。 不安に思いながら休憩室に連れて行って貰った。 休憩室は文字通り休憩したり、弁当を食べたりする部屋だ。 テーブルや椅子がいくつも置いてある。 係長は椅子をひとつ抜いて車椅子をテーブルの前につけた。 「すみません……」 「いや、いい」 頭を下げたら、俺の向かい側に座った。 「小谷君、昨日帰り際に駐車場で見かけたんだが、もう1台黒塗りの車がいたね」 やっぱりそうだ。 「はい」 でも、黒塗りの車ってだけで、石丸組の人間だとわかる筈がないと思うんだが……。 「あの車、それに運転手の顔がチラッと見えたが、あれは石丸組の人間じゃないか?」 なのに、いきなり石丸組の名前を出して聞いてきた。 「えっ、いいえ……」 ここは否定した方がいい。 「誤魔化さなくていい、私の知人の息子さんが、以前石丸組のフロント企業に就職してね、いや、フロント企業だと知らなかったんだ、で、知人が気づいて辞めさせようとしたんだが、息子さんは辞めたくないって言い出した、だけど知人からしたら、ヤクザなんて嫌に決まってる、それで話がややこしくなって雇い主と話し合いをしたんだ、その時に私も付き合わされてね、つい先日の事だからあの車には見覚えがある、アルミをはめてたし、それが同じだった、運転手はハッキリとは見えなかったが、多分間違いない」 係長は詳しく話をしたが、だからなんだ? って話だ。 「あの……、話は分かりましたが、だとしても、その話と俺は関係ないんじゃ? 俺は脅されたり危害を加えられてるわけじゃないんで」 俺は関係ないし、もうバレても構わないから、余計なお世話だと思った。 「ああ、その息子さんも結局は無事辞めさせる事ができたんだが、そういう事じゃない、小谷君、反社会的勢力の人間と関わるのはよくない」 つまり、ヤクザなんかと関わるなって言いたいようだ。 「係長……、すみませんが、これは俺のプライベートな事なんで」 俺が誰と付き合おうが、係長に指図される筋合いはない。 「そうだが、小谷君、何故そんな人間と付き合うんだ、社内で友人を作ればいいじゃないか、私は君のご両親から君の事をよろしく頼むって言われてる、責任があるんだよ」 友人って……簡単に言うが、健常者だからそう思うんだろう。 係長もこういう身になってみればわかる。 「俺はご存知の通り車椅子です、みんな俺に優しくしてくれる、それは感謝してます、だけど……こんな体の人間と対等に付き合えますか? それに両親の事は……俺は下半身不随になっても、小さな子供じゃないんです、だから……係長が心配してくださるのはありがたく思うけど、その事についてはどうか触れないでください」 親が何を頼んだのか知らないが、俺はいい大人で、ちゃんとわかって行動している。 「いや、しかしだね君……、相手はヤクザだ、ああいう手合いは優しく擦り寄ってきて結局食いものにする、君のような社会的弱者を狙うケースだってあるんだ、ほら、生活保護費を不正受給させて、そういう行き場のない人間をどこかに収容するだろ、で、金を巻き上げて飼い殺しにするんだ」 係長の話は事実かもしれないが、あの2人は違う。 「あのー、そりゃ五体満足な人間なら無理矢理働かせたりできるでしょうが、俺みたいな手のかかる人間をわざわざ騙して金を搾取するのは、有り得ないと思います」 重度の障害がある場合、必ず人の介助が必要になる。 体調管理、排泄コントロールだって大変だし、それらを怠ると体調を崩したりする。 小川さんも杉本さんも、それを理解した上で健常者として扱ってくれる。 「小谷君……、私は君の事を心配して言ってるんだ、ヤクザと付き合うのはやめた方がいい」 係長にはなにを言っても無駄らしいが、誤解されたままじゃ腹が立つ。 「あの、俺は石丸組の人に助けられました、それをきっかけに知り合っただけです」 あの2人には、危害を加えられるどころか、むしろ逆だ。 「助けられた? 一体なにがあったんだ」 係長は興味津々に聞いてきたが、こんな人に詳細を話したくない。 「すみませんが、それは話したくないです、とにかく……俺の事は見なかった事にしてください」 頭を下げて車椅子をバックさせた。 「あ……、小谷君、しょうがないな、じゃ、押すよ」 係長は慌てて席を立ち、後ろに回り込んだ。 「すみません」 もう一度頭を下げてデスクまで送って貰った。 「仕事の邪魔をして悪かったね、じゃまた」 デスク前に到着したら、係長は一言詫びてその場を離れた。 「ね、小谷君、係長なんだったの?」 隣の女の子がこっちに屈み込んで、ヒソヒソ声で聞いてきた。 「いえ、大した事じゃないです、俺の体調を心配して、最近どうかって」 咄嗟に適当な事を言って誤魔化した。 「そっかー、だったらいいけど、なんか叱られたのかと思った」 「ははっ、叱られても仕方ないんですけどね、ダラダラやってるので」 俺は仕事をバリバリこなすっていうよりも、与えられた課題を処理するだけだ。 「そんな事ないって、小谷君しっかりやってるじゃん」 なのに、ムキになって言ってくれるから照れ臭くなる。 「いえ……、ははっ」 「あのね、あたし……来月籍入れるの、式は身内だけで簡単にやるけど、小谷君、出席無理かな?」 「あ、そうなんだ、じゃあ名前変わるんだ」 もう慣れたが、結婚……って、やっぱり羨ましく思う。 「うん、山本になる、超つまんない苗字」 超つまんない苗字でも、人生のパートナーを得て、新たな船出となるわけだ。 「そっか、山本さんか、式は……ごめん、せっかくだけど、やっぱ無理なんで」 身内だけの式に招かれるのは嬉しい。 だけど……遠慮しとく。 「残念だな~、小谷君には来て欲しいけど、体に負担かけちゃマズいよね、うん、わかった」 じきに旧姓になるが、松野さん改め山本さんは、デスクが隣同士という事もあって、暇な時にたわいもないお喋りをしたり、お茶をいれてくれたりした。 それなりに親しくしてるので、俺を誘ってくれたんだろう。 その気持ちだけで十分ありがたい。 ほんと言うと、式に出たくないのは……やっかむ気持ちもあったりする。 幸せいっぱいラブラブな2人、俺だって、もし事故をやらなきゃ今頃は彼女と……。 そんな風に思ってしまうから、行きたくない。 ◇◇◇ 係長のお節介は、それ以降はなかった。 俺はその後小川さんに電話した時に、会社には来ないようにお願いした。 係長以外の人間に見られる可能性があるし、勝手にありもしない事を言われたりしたら面倒だ。 それから数日後の金曜日、小川さんと会った。 小川さんの部屋で2人きり……。 今日こそヤルつもりできた。 準備は万端だ。 ソファーに座らせて貰い、小川さんはココアをいれて隣に座ったが、なかなか手を出そうとしない。 ひたすらココアを飲んでタバコを吹かしている。 「ふうー、うめぇな」 タバコを灰皿でもみ消して言ったが、俺は家でシャワ浣まで済ませてきた。 なのに、肩を抱こうとすらしない。 真面目なのはわかるが……これが杉本さんなら、とっくに何かやっている。 マグカップを置くのを見計らって手を握った。 「んん、へへー、なんだ、どうした」 呑気に笑顔で聞いてきたが、俺はものすごく期待してここに来た。 「……春樹さん!」 力を込めて名前を呼んだ。 「おお? どうかしたか?」 小川さんはびっくりした顔で聞いてくる。 「約束……しましたよね?」 全く勘づいてないようなので、思い切って言った。 「お、おお……」 ようやくわかったらしい。 「じゃあ……、俺、脱ぎます」 だったら迷う事はない。 ムードもへったくれもないが、Tシャツを脱いでいった。 「お、おい……、操、いきなりか?」 小川さんは狼狽えているが、構わない。 上半身裸になったら、次は下だ。 「わかった、下はちょい待て、俺が脱がせてやるよ、その前に俺はシャワーを浴びる、いいか? それまでおとなしくしてろ、ソファーから落ちて怪我ぁしたら大変だからな」 俺の手を掴み、脱ぐのを阻止して言ってきたが、なんとかその気になってくれたらしい。 「わかりました」 少々強引だが、俺が行動に出なきゃ……あのまままったりとココアを飲んでいたんじゃないか? 小川さんが真面目なのはわかっているが、奥手なのか何なのか……謎だ。 待つ間、小川さんが杉本さんとあまりにも違うので、それが不思議でならなかった。 ヤクザなのに、下手な一般人より真面目なんじゃないか? そんな小川さんにいよいよ……遂に……これから抱かれる。 緊張するが、期待の方が大きい。 係長は反社組織とは付き合うなって言ったが、2人共、こんな俺を疎ましく思う事もなく、素で付き合ってくれる。 障害者として気を使ってくれる人達は、とてもありがたい反面、あくまでも俺を障害者として見ている。 でも、2人は違った。 車椅子で生活する事に興味を示し、率直に思った事を口にする。 すごく気持ちが楽になった。 この気持ちは係長には理解できないだろう。 思わずため息が漏れたが、不意に電話が鳴った。 スマホは車椅子の脇にかけた鞄の中にある。 「っと……」 倒れないように腕で横へ移動して、手を伸ばして鞄をとった。 急いでスマホを出して見ると、杉本さんだ。 ポチッと電話に出た。 『はい……、小谷です』 『おお、今日休みだろ?』 『はい』 なんとなく、何を言うか想像がついた。 『今から会えねぇか?』 やっぱり……。 『あの……、俺は今、春樹さんちに来てます』 言っていいか迷ったが、言った。 『なに? 小川んちにいるのか、あいつー、抜け駆けしやがったな』 抜け駆けって……そんなんじゃないんだが。 『いや、あのー、約束してたんで』 杉本さんは忙しいと言っていたし、俺は電話しなかった。 『あんな、俺はあんたと会う時は言ってくれって奴に話してたんだ、なんだよ~、こっそり会って』 2人でそんな話をしていたのは知らなかったが、別に知らせなくてもいいと思う。 『いや、でも……、会うのは自由なんだし、別に言わなくても』 『3人で付き合うって言ったんだ、だったら互いに通じあってなきゃおかしい、それがキマリだろ、んにゃろー、小川を出せ、かわれ』 それは杉本さんのマイルールなんじゃ? 俺は3人で付き合うからって、常に3人で会う必要はないと思う。 『それが……、今シャワー浴びてるんで』 『なにーっ! って事はヤルんだな、あの野郎~』 杉本さんは腹を立てているようだが、ちょっと待って欲しい。 『あの……、杉本さんとは何回もお会いしてきました、小川さんとは初めてなんです』 今までは杉本さんのみだったんだし、そんなに腹を立てなくてもいいと思う。 『おう……、そりゃわかってる、な、いっそ3Pやらねぇか?』 すると、ぶっ飛んだ事を言い出した。 『む、無理です……』 そんなむちゃくちゃな……。 『そうか……、俺はかまわねぇんだが、あんたが嫌ならやめとくわ、にしても……、これからやんのか、ま、しょうがねぇ、こうなる事は承知の上だ、あんたは俺ら2人で可愛がるって決めたんだからな』 杉本さんは構わないと言ったが、どこか不満げな感じがする。 『あの、杉本さんがよければ、俺は仕事帰りでも構いません、良かったらマンションにうかがいますが……』 今まで世話になってきたし、杉本さんも立てなきゃマズい。 『そうか、おお、だったらまた連絡するわ』 『わかりました』 『んじゃ、ま、仲良くやりな、邪魔して悪かったな』 なんとか機嫌を直してくれたようだ。 『いえ……、それじゃあ、連絡待ってます』 『おお、まただ』 電話を切ってスマホを膝に置いたら、小川さんが風呂から出てきた。 「あ……」 腰タオル姿だが、予想した通りの恵体だ。 「ん、電話か?」 つい見とれていると、スマホを見て聞いてきた。 「あ、はい、杉本さんから」 「杉本か、へっ……、内緒にしてたからな、誘ってきたか?」 「はい」 「残念だったな、あいつは俺がいねぇ間に散々楽しんだんだ、だいたいよ~、奴は抜け駆けしたんだからな、俺だって抜け駆けしてやる」 これって……抜け駆けの応酬? 俺はどう捉えたらいいか複雑だが、さっき杉本さんが言った事を聞いてみたい。 「あのー、杉本さんに3Pしないか? って言われたんですが」 小川さんはそういうのをどう思うんだろう。 「なにぃ~、あいつー、相変わらずだな、駄目だ駄目だ、俺はそんな趣味はねー」 小川さんは3P否定派らしい。 やっぱり真面目だ。 「俺は悪いけど、断りました」 どことなく安心した。 「おお、それでいい、奴はな、今でこそやらなくなったが、あの手の乱交が好きで、昔はよく参加してたんだ」 乱交好きって……。 そういえば、スカも経験があると話してた。 凄いな、俺にはまったくわからない世界だ。 「そうなんですか」 「ああ、あんたらからしたら、かなり特殊な事に思うかもしれねーが、俺らはそういう事をやる機会がちょくちょくあるからな」 どうやら、ヤクザならでは……らしい。 「そのー、小川さんは参加したんですか?」 小川さんはどうなのか、一応聞いてみたい。 「いーや、俺は断った、女がいたからな」 ホッとしたが、その女というのは……。 「あ、はい……」 事故で亡くした彼女さんの事だろう。 「ま、あれだ、話をしたらキリがねー、ベッドに運んでやるよ」 「はい、すみません」 小川さんは話を切り上げて俺の前にやってきた。 まだ下を脱いでないので『じゃあ、下を脱ぎます』と言ったら、小川さんが脱がせてくれた。 「よーし、じゃ、抱き上げるからな、首に掴まってな」 「はい、わ……」 例によってお姫様だっこをされたが、こうやって体が宙に浮く度に、すげー力持ちだと思ってしまう。 ここも杉本さんちと同じで2部屋あるが、ベッドは隣の部屋にある。 二階に上がる階段は洒落た螺旋階段だ。 デザイナーズってつく位だし、お洒落で凝った作りをしているが、部屋の雰囲気はパステルカラーで、女性的な感じがする。 しかし、それらをゆっくり眺める暇はなく、ベッドに到着した。 「ほら、布団をかけろ、冷えたらマズい」 小川さんは掛け布団をかけてくれて、そのついでに自分も布団に入ってきた。 腰のタオルをとっている。 「へへっ……、ほんとにやっちまっていいのか?」 片肘を立てて頭を支え、横向きになって聞いてくる。 「はい」 俺は体を捻って小川さんの体に手を回した。 「そうか……」 小川さんは返事だけ返して唇を重ねた。 心臓ははち切れんばかりに高鳴り、暑い胸板に抱かれて温もりを感じた。 肌を滑る手が上から下へ這い、腰の辺りで感覚が途切れる。 「ツルツルして気持ちいいな」 俺の首にキスをしてきた後で、小川さんは上にかぶさってきたが、俺に体重をかけないように腕で体を支えている。 キスは胸に移り、乳首を舐められてビクッとした。 「杉本にやられちまったな、けどよ、俺は俺だ」 小川さんは、ちょっと残念そうに言って胸板を舐める。 舌が這い回る感触は堪らなく興奮するのに、下半身は多分勃起してない。 アナルだってなにか変化が起こるわけじゃなく、沈黙したままだ。 それでも、気持ちは昂っている。 一生懸命小川さんを抱き、肌を撫で回した。 「そうやって背中を抱かれると、気持ちいいわ」 小川さんは喜んでくれた。 「へへっ、良かった」 「笑ったな、あんたは笑顔がいい」 頭を撫でて言ってくるから、ものすごく照れ臭い。 「はい……」 「で、気がはえーが、ぼちぼちやりてぇ、やっちまっていいか?」 小川さんは聞いてきたが、肝心のナニはまだはっきり見てない。 「あ、はい……、どうぞ」 俺は小川さんを体内で感じる事はできないが、興味はある。 そこからは杉本さんと同じやり方で進んでいった。 何をされても無感覚なのは、感覚有りな人と比べたら、どこか冷めてるように見えると思う。 俺は無感覚な部分を気持ちでカバーしようと思っているが、感覚がない分、冷静に小川さんのナニを見て杉本さんと比べていた。 小川さんのナニは、杉本さんとそんなに違いはなかったので安心した。 感覚がないんだから、もし巨根だとしても関係ないんだが、気持ち的に不安になる。 そうするうちに、小川さんはローションを注入し終えたが、ゴムを出して装着している。 「あの……、ゴムつけるんですね?」 「ああ、腹を下したら悪ぃからな」 「俺、大丈夫です、腹は下しません」 俺はそれで腹を下した事はない。 「それも杉本で試し済みか、いや、あのな、ゴムをつけた方がいいんだよ、あんたはただでさえ苦労してるんだ、万一バイ菌でも入って、なにかあったら事だからな」 やっぱり、こんな時にも真面目さが表れるようだが……。 「そうですか、あの、わかりました」 思いやってくれる気持ちが嬉しい。 「じゃ、いくぞ」 「はい」 返事をして小川さんを迎え入れたが、脳内イメージ発動だ。 ナニがアナルを押し開いて入ってくる感じ。 それを想像力で補う。 「んんっ」 やってる気になったら自然と声が漏れていたが、実は杉本さんとヤル時に、毎回脳内イメージ発動をしていたせいで、自然と感じてる雰囲気を出せるようになった。 「ん? 操……感じるのか」 小川さんはかぶさって聞いてきた。 「あの、イメージなんです、今やってるんだって思うと、感じる事ができます」 「へえ、すげーじゃねーか、じゃあ、俺を感じてるんだな?」 「はい……、俺も普通の人みたいに感じたい、だから、自分で自分を盛り上げるっていうか」 感覚だけが全てじゃなく、人間は心で感じる事ができる。 「そうか……、じゃあよ、俺はあんたをもっと感じさせなきゃ申し訳ねー」 小川さんはゆっくりと動き出した。 キスをして乳首を摘み、一定のリズムで体を揺らす。 俺は感覚のある部分をフルに働かせて、小川さんを感じた。 小川さんの動きにあわせて声を漏らしたら、小川さんは興奮したらしく、頭を押さえつけてディープキスをしてきた。 初めての時とは違う、情熱的なキスだ。 首にしがみついて舌を絡めたら、突かれる度にどんどんイメージが膨らんできた。 「操……、イキそうだ、もういっちまっていいか?」 小川さんは辛そうに眉を歪めて聞いてくる。 「はい……」 「へへっ……、よし、じゃあ、いくぞー」 返事をしたら、小川さんはニッと笑って、さっきより大きく動き出した。 それでも、俺に負担をかけちゃマズいと思ってるのか、セーブして動いてるのがわかる。 揺れる体に掴まって最後の瞬間を迎える。 体内の脈動を感じる事はできないが、荒らげた息づかいや胸の鼓動、それらは露骨に伝わってくる。 俺はイク時のあの感じを味わう事はできないが、こんな体で満足して貰えるなら、それが俺にとっての快楽だ。 「あーあ、いっちまった、なげぇ事やってねーからな、やろうと思やまだヤレるが、連続してやるのは負担をかける、それによ、もう昔みてぇに若くねぇ、勢いでヤルような真似はしたくねぇんだ」 小川さんはチラッと昔話をしたが、杉本さん程じゃないとしても、それなりに遊んできたんだろう。 「そうですか」 「人間ってやつはとかく欲や金に目がくらみがちだが、そういうので得た満足感は味気ねー、惚れた相手を抱いた時が一番満たされる、俺はこんな稼業だ、いつどうなるか保証はできねーが、そばにいられるうちは……あんたの力になりてぇ」 「はい……」 今、ものすごく嬉しい事を言ってくれたのに、嬉し過ぎて胸がいっぱいになって言葉が返せない。 「よし、じゃ退くぞ」 小川さんは起き上がり、ティッシュをとって後始末をし始めた。 俺だって、本来なら自分の後始末くらい自分でやりたいが、人形のように寝て待つしかない。 それが済んだら、小川さんは俺に服を着せてくれた。 その後で自分も服を着たが、俺を座らせて肩を抱いてきた。 「杉本もいるからよ、独り占めはできねーが、今日は独り占めだ」 小川さんは俺の頭に口元を寄せて話をする。 「はい」 「な、杉本なんかほっときゃいい、また2人きりで会おうぜ」 頭の中に低い声が響いてくる。 「はい」 俺は『はい』しか言えなかったが、その代わりに、小川さんの腰に手を回した。 なにか気の利いた台詞でも……と思うのだが、こうしてくっついてると、気持ちよすぎてなにも考えられなくなる。
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