届け、この思い

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 ふう、ふう、ひい、はあ……。  八月のこの暑さの中、近所の親戚に「紅乃屋」のおはぎを届けるように、母に頼まれましたですよ……。  自動車運転免許もなく、一○四キロの体重を支えきれる自転車もない……結局この体感温度四○℃超えの灼熱の路上を、徒歩で持って行くことになったのでございます。  まあハゲてる頭を直射日光から保護するためにキャップをかぶっておりますけれども、こんなの焼け石に水でございますね。  齢五十にしてニート&子ども部屋おじさん歴三十有余年……たまにはお使いくらいしなければ、年老いた両親に顔向けできないってことですね。  はあ、ふう、ひい、ひい……。  しっかし……この暑さプラス私の体重により、汗がナイアガラの滝のように全身から流れ出し、自重によって両膝が悲鳴をあげておりますですよ。自力歩行もそろそろムリになってまいりましたかね……。  あっ、ちょうど涼を取りたいと思っていたところにコンビニがありましたですよ。  あそこのイートインスペースで、アイスコーヒーでも飲んで休憩いたしましょう。  ……さて、涼しい!そしてアイスコーヒーLサイズがうまい!  人心地がついた思いでございますですよ。  でもなんか、アイスコーヒーを飲んだら、スイーツが食べたくなってきましたですね……。  食べちゃうか、おはぎ。  いやいやいや、これは親からとはいえれっきとした頼まれもの、それはまずいんじゃないですか!  ……でも、ちょっと包みの中を拝見、っと。  ぐはぁ!なんちゅううまそうなおはぎ!  よくこねた餅米の上にこれでもかと重厚なあんこが乗っかっておりまして、食欲をぐいぐいそそるじゃありませんか。  一つくらいなら、拝借してもわかんないですかね……。  ひいふうみい……十個も入っているわけですから、十個が九個になっても、絶対先方は気づきませんでございますよ。  まあ……そんなわけで。  一ついただきまーす。  むしゃむしゃ……うん、これは噂に違わぬ美味でございますよ!大きなおはぎが、あっという間に胃の中に入ってしまいました。  いやあ、さすが奈良の名店はひと味違いますですね。  しかし……箱の中身が九個、というのはどうもバランスが悪い感じがいたしますね。  そうだ、も一個拝借いたしまして、八つにいたしますと左右のバランスが取れて見映えがよくなりますですよ!  それでは善は急げ、ということで……むしゃむしゃ……うん、最高!  しつこくない甘さが、さらなる食欲を誘って、おはぎの無間地獄へと誘われるがごとくでございますねー。  むしゃむしゃ……うーん、このあんとごはんの絶妙なハーモニー。いくらでも食べられてしまいますですよ。  ……って、あーっ!七個目のおはぎまでペロリと平らげてしまったではありませんかぁっ。  しかたありませんね。六個目のおはぎも食べて左右のバランスとるしかないでございますですよ。  むしゃむしゃ……むしゃむしゃ……。  だあぁーっ!無我の境地でおはぎを平らげておりますと、なんと残り二個にまで激減してしまったではありませんかあぁーっ。  こんなデカい箱におはぎがたった二個……。  これはさすがにお届け先の親戚も、不審の念を抱かざるを得なくなりますですよ……。  どうしよう!  ええいままよ!こうなったらここのコンビニの二個入りおはぎを買って、包み紙だけ紅乃屋さんのものに差し替えるしかございませんね……。  そうと決まれば、贈答用の残ったおはぎをいただいてしまいましょう!  むしゃむしゃ……うん、最高!ごちそうさまでした。  ほどよく小腹が満たされたところで、かわりのおはぎを購入しなければなりませんですね。  うわっ、しょぼっ!  小さなあんこときな粉のおはぎの二個入りセット……これをわざわざもってくるとはどういう神経してるのかと疑われますですよ……。  とはいえ、先方もかなりの高齢。この程度の違和感に気づく繊細さはないでしょう!  さあさあ、紅乃屋さんの包み紙で包装しなおして、っと。  うわぁ……よく考えたら私、ものをきれいに包む技術をまったく習得しておりませんでしたから、しわだらけのきったない包みになってしまいましたですよ!  こんなの、先方の親戚にバレるに決まってますですね……。  いや、そこは私の真心が!少量でも心のこもった贈り物であることをわからせてやりますですよ!  届け、私の心よ!  よし、念じた。  そういいながらも、「あの、これ……うちの両親からです」  とぼそぼそいって渡した後、ダッシュで帰っちゃえばそれでおしまいでございますよ。  さて、一仕事すませてきますですか。  うわぁ……コンビニの外は灼熱の太陽でございますですねー。  さっさと野暮用すませて、家に帰ってコーラの2リットルペットボトルをがぶ飲みしたいですよ。  それでは、行ってきまーす。                   終
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