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市場にて
「おや、珍しいね、お嬢ちゃん! キアを連れているなんて」
「本当だ! ここらではもう、トンと見かけなくなってしまったからねぇ」
好意的な声かけに、イリスは思わず微笑んだ。
背負袋の上に乗っているハル――今では稀少種となってしまったキアと呼ばれる幻鳥が、愛想よく左右に揺れているのを感じる。
「良いものを見られたねぇ。確かキアは果物もいけたはずだね。……よし、傷ものになったコレをお前さんにあげようかね」
露店の端から差し出された、1つの鮮やかな橙色の果実に、横揺れが縦揺れに変わる。と、同時にどこか遠くで、クルルルルゥと聞き慣れた甲高い鳴き声が聞こえた。
「なんとまぁ、やっぱりキアは賢いねぇ! ……コレも持って行くかい?」
「イイネ!」
「話すのかい?! イイよ、イイよ、持っていきな!」
ノリノリで話す売り子のおかみさんが追加にもう1つ差し出すと、座りこんでいた店番らしきお婆さんがすかさず、別の黄みがかった果実を2つ取り出した。
「イイネ、イイネ! アート! アート!」
「ハル……あの、ありがとうございます。ハルもアート、ありがとうと」
「成る程ねー! アートはお礼だったのかい?!」
「本当にビックリするほど賢いね」
笑いながら差し出された果物を2人から受け取り、腰に吊るしてある袋に入れた瞬間、今度は空程近くからキィーアァーと鋭い鳴き声がする。
イリスはビクッと小さく肩を跳ねさせた後、同じく腰から小さな袋を取り出した。
「あの、折角なので、もう1つずつ下さい。 いくらですか?」
「あらそう? 押し売りになっちゃったかね。なら、鉄貨12枚のところ、10枚にしとこうか」
「ありがとうございます! 銅貨でも良いですか?」
「もちろん。ハイ、銅貨1枚、確かに」
イリスは高速に縦揺れするハルに合わせて自分もペコリと頭を下げ、また市場の中を歩き出した。
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