イリス

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イリス

 イリスは森の民だ。  正確に言えば、血筋は半分だけ――森の民の居住区で、生粋の森の民である母アイラと余所者だった父リストの一夏の出会いから、生まれたらしい。  森の民は茶色の髪と翠の瞳を持つ一族だ。父リストは、一目で余所者と分かる、燃えるような紅い髪と蒼い瞳を持っていたらしい。  イリスは父の紅い髪と母の翠の瞳を受け継いだ。  リストは学者だった、とイリスは聞いている。  森の民の居住区辺りの調査に来て、アイラと出会い恋に落ちたという。 そして、その調査の最中、事故死した。  大雨の後、調査に出かけたリストはアイラの元には戻らなかった。  捜索の後に分かった事は、滑落の跡に残された血溜まりとリストの遺品。  恐らく、緩んだ地盤に気付かず滑落し、怪我をして動けなくなったところを獣に殺られたのだろう、との見解だ。  現地には戦ったであろうリストの短剣と、肌身離さず持っていた血統限定のある魔工具、収納袋が残されていた。  それらは現在全てイリスが引き継ぎ、イリスが出奔するための礎となっている。  イリスの母アイラは、外の世界に憧れを持った、夢見がちな娘だった。  森の民の掟はあるがまま――自然を何より尊ぶ。ソレが故に、彼らの森に入り込む異端全てを嫌う、排他的種族。  アイラはリストと関わり合うことで、既に幾つもの禁忌を犯していた。  その上、リストが消えた後で、彼女のお腹にはイリスが宿っていることが判明。  アイラは恋が叶った幸せな時間から、一気に人生の底まで落とされてしまう。  そして、その犯した禁忌故に一族から離れ、森の外れに1人で住むこととなった。  1つの救いがあったとすれば、アイラは心からリストを愛していたということ。  そして、それ故に、生まれたイリスをまた心から愛しく思い、育てたことだろう。  時が来るまでは――
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