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薬草を求めて
「ふふ、イリスの髪は、父様と一緒。綺麗な紅い色ね」
「かあさま、ありがとう。おねつは、だいじょうぶ?」
顔色の悪いアイラは、寝台に横たわりながら、イリスの髪を撫でる。
イリスが5歳の時だった。
産後の無理が祟ったのか、アイラは懸命にイリスを育てつつも力尽き、寝台から身を起こせなくなったのは。
イリスは幼いながらも、出来うる限り、母の身の回りの世話をした。
そんな中、流石に見るに見かねたのか、アイラの母イーラがそっと薬を差し入れ始める。
イーラは孫のイリスに一族秘伝の薬湯の作り方を伝授し、それによりアイラの体調は快方へ向かう。
しかし、それが長老会にバレた。長老会に睨まれたイーラは、アイラと関わることを止めてしまった。
そして、薬の尽きたアイラの体調は、また不調となりつつあった。
「大丈夫よ、大丈夫。母様はイリスがたくさんお世話してくれてるから。……ごめんね、イリス。イリスはちゃんと朝ご飯、食べられたのかな?」
イリスは朝、起き上がれないアイラの姿を心配そうに見上げながら、コックリと頷く。
「そう、良かった。……ごめんね、イリス。母様、もう少し横になってても良い?」
「うん、でも、ごはん……」
「ありがとう、イリス。もう少しだけ休んでから、頂くから――」
辛そうな母の姿を見て、イリスはすぐに頷いた。それから、母の邪魔にならぬよう、そっとその場を離れる。
そして、のぞき込んだ薬箱の中は空。イリスの記憶には、薬湯を飲んで元気になりつつあった母の姿が鮮明に焼きついていた。
「おくすり、もうない……ばあばのやくとう、つくれない」
イリスは一生懸命に考える。
あの薬を作る元の薬草を、イリスは見せてもらったことがある。
薬草を日陰に干し、細かに砕いて薬湯を作るのだ。ただし、収穫後直ぐに細かに刻んで薬湯にしても、同等の効果は得られるとも聞いた。
薬草は岩場や崖などの日当りの良い斜面によく生えているという。
最近のイリスは、食材集めのために山に入ることもあった。最も限られた範囲内だけであったけれども……。
あの先に、ひょっとしたら、薬草があるかもしれない。
イリスは窓の外を見る――今日は雨。森での悪天候は危険だと教えられている。まだ幼いイリスにとって、体温の奪われる雨の日は、危険日にあたる。
けれども、イリスは薬草を探しにそっと家から抜け出した。
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