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イリスの選択
イリスが薬師見習いとなり、交流が出来たせいか、イリスが8歳の頃、母アイラと薬師シダが再婚した。
その頃から、イリスは義父となったシダより、髪を茶色に染めることを強いられた。
そして、同居するようになった為か、その他にも口出しされることが増えてくる。
今ならその行動は、イリスが一族に馴染めるよう心配していた、と分かる。
しかし、当時のイリスにとっては束縛にあたり、ソレを嫌って採取と銘打ち、イリスは森に入り浸った。
そんな生活の中で、やがて弟も生まれた。
そして、イリスの放浪癖も周知され、イリスが一族で1人前とされる10歳をあと少しに控えた頃――
イリスは森の中で久しぶりに頭の一部が白い、友達のキアに遭遇した。
そのキアの隣には、一回り大きい、緑と黒の混じった羽毛のキアが寄り添っていた。
「キア! 久しぶりだね。……ひょっとして、番? キア、家族が出来たの?!」
「クルルルルゥ」
「おめでとう! 良かったねー!」
イリスは飛び上がって喜んだ。
それに対し、キアはちょっとドヤ顔をし、身体ごと上下にウンウンというように揺すってから、やがて2羽揃って大空へと羽ばたいた。
「キアー! 新しい家族を紹介してくれて、ありがとー! 幸せにねー!」
イリスは2羽が見えなくなるまで、下からずっと手を振り、見送った。
「キアも新しい家族ができて、新生活が始まってる。……わたしもそろそろ、心を決めなくちゃ」
イリスは区切りの10歳を機に家を出るか否か、まだ決めかねていた。
日々悩みながらも準備し、季節がまた少し移り変わり、イリス10歳まであと数日となった夜――
その日は朝から1日中、雨が降っていた。
イリスは今日も森の中で過ごしていた。父の遺品の収納袋にあった天幕は、快適だ。
息の詰まる家よりは、自由な森の中を選ぶ。
ある意味過酷だった幼年期を代償に、何処でだって逞しく生きていける。
イリスはそんな娘に育っていた。
「10歳のお祝いの席までには、決めないと……」
そんな時、イリスは何かに呼ばれた――胸をよぎる、焦燥感。
行かなくてはならない。
イリスは誘われるように、天幕から抜けだし、森の中へ足を進めていく。
そして、たどり着いたのは、土砂が崩れ、崩落した岩場の跡。
そこでイリスが見たものは――広がる血溜まりの中から折れた片方の翼を引きずり、動く翼の下で鳴く2羽の雛を懸命に安全な方へ押しながら歩く友――キアの姿だった。
イリスの心はその瞬間に決まった。
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