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王都の中へ
「お家を飛び出してから、5年とちょっとか〜思えば、遠くにきたものだー」
「クルールゥ」
野営地の中でイリスがしみじみと呟くと、側に寄っていた3羽がウンウンと上下に揺れながら、相づちを打つ。
森の民の掟はあるがまま。
傷ついた生き物に手を貸すことは、許されない。
弱いものは淘汰され、強きものの糧となる。
イリスにとって、5年前のあの時、恩ある友達のキアとその雛達を見捨てる選択は、あり得なかった。
自分の父の最期を彷彿させる、崖崩れと血溜まり。
その中で傷つきながらも懸命に雛達を守る友達を、支える以外の選択肢はない。
最後まで心残りだった母アイラは、きっともうイリスが居なくても大丈夫だ。
新しい家族と居場所がある。
イリスの心からの想いに応え、友達のキアは自らの名をハルと明かし、契約を交わす。
その後の5年は山あり谷ありだが、イリスにとってやりがいもあり、楽しいものだった。
可愛くも手強い雛達もこの間ついに成鳥し、ハルと同じく契約を交わした。
ヤダが口癖で、イリスをイーと呼びイー、ニ!と貢いでくる、黄色い風切り羽が特徴のピュイ。
ドウゾが口癖で、狩りの上手な緑と黒の羽毛に覆われたアイ。
今のイリスの大切な仲間、新しい家族だ。
「明後日がいよいよ王立学校の試験だから、明日の早朝には王都の中へ入るね。そこからなるべく試験場に近い宿を押さえて、翌日試験っと」
ウンウンと頷く3羽。
「試験は全力を尽くすよ! まあ今回の見込みは薄いけど、受験資格は成人15歳以上であること、のみだからね。何度でも挑戦する」
「イイネ!」
「うん! 狭き門だけど、合格さえもぎ取れれば、国からの補助で衣食住、安全全てが保障されるらしいからね。その分、すっごく審査は厳しいって……だけど、わたしには父の遺産がある。その試験に通った父の蔵書や資料を読み込めば、いつか必ず合格に届く。勝算はあるよ」
「イイネ、イイネ!」
3羽は揃って横揺れし、今度は踊りださんばかりだ。
イリスはそこへ跪き、ハルの黒眼をじっとのぞき込む。
「わたし、いつか必ず魔工技師になる。そして、ハルの翼を治したい。それが難しいのなら、せめて翼に代わる何か――空を飛ぶ何かを作り出したいの」
イリスは決意表明と共に真夜中に独りで王都の門へ、そして、早朝にその中へと歩み出した。
森の中に3羽の為の、居心地の良い拠点とその食料を置いて。
その中にはあの6つの果実が1羽につき2つずつ、キチンと置かれていた。
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