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小作農の実家を飛び出し、北前船に船員として乗って大阪から小樽までの航路を旅しながら一太は一獲千金を目指した。身分制度の強かった当時、北前船で修業をし、出世して船頭になれば庶民の身分でも千両長者になることも夢ではなかった。
しかし一太は何年も最下級の炊と呼ばれる炊事係のままで、とうとううだつはあがらなかった。
ある年の春、一太は船頭になることを諦めた。そして最後の航海で小樽で降りたあと、そのまま北海道の開拓に携わった。一太はまだ未開の北の大地を自ら切り開き、富と名声を得ようと考えていた。
しかし、そこで一太が目の当たりにしたのはすでに開拓の進んだ町や村の光景ばかりだった。
行く先々の町や村の農作業を手伝いながら、一太は誰も手を付けていない自由な土地を目指してどんどん北へと進んでいった。そして一太はとうとう最北の地、稚内へとたどりついた。
そこには確かにまだ未開の地が残されていた。畑作には到底向かない、隆起の大きな山や谷の深い森しか残されていなかったが、一太にはそれが自由の大地に見えた。
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