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届けたいもの
母はその頃強豪校だった、私の通っている高校に毎日7人分のお弁当を届けていた。
私の分も含めて、3時間目と4時間目の休み時間に越境入学をしてきている生徒の分もお昼を作ってくれていたのだ。
学校とも話し合いをして、職員玄関が一番安全だろうと言う事で、食べ物なので安全面も考えて職員玄関に置かせてもらっていた。
私が卒業してからも越境の生徒たちがいたので都合6年位は学校がある間は毎日お弁当を届けてくれていた。
自分が母親になってから、幼稚園の息子たちのお弁当を作るのさえ大変だったのに、食べ盛りの7人分のお弁当を考えるのは毎日大変だったと本当に今更ながら思うのだ。
それも運動部に所属する生徒のお弁当なのだから栄養面も気を遣う。
でも、母は作るのも食べるのも好きな人だったので、メニューに困ることはなく、毎日違う種類のおかずを入れて、美味しいお弁当を毎日届けてくれた。
ただ、好きだけではやはり大変な日だってあったと思う。
それでも美味しいお昼を届けたいという思いで毎日お弁当を作ってくれたのだろう。
それも、よそのうちのお嬢さんたちを預かっているからと、手を抜かないお弁当をずっと作り続け、毎日届けてくれた母には本当に頭が下がる思いだ。
母は大きな病気を期に、食堂をやめ、その後には父が亡くなったりもして、本業である洋品店を亡くなる前日までやっていた。
その時にも、仕入れの時には常連のおばさまたちのご希望の洋服やスラックス、ハンカチなどを届けようと、一日中立ちっぱなしで行う仕入れの最中も本当に一生懸命に品物を選んでいた。
その懸命さで、常連さんの心をつかみ、町内の奥様達は殆ど、遠くは車で30分以上かかるところからも買い物に来てくれる常連さんがいたものだ。
届けるという思いは実際に自分が足を運ぶだけではなく、店頭にお客様の欲しいものを運んでくると言う事も含まれるのではないかと考える。
ずっとずっと誰かに何かを届けたいと思いる続けた母の気持ちや行動はとても素晴らしいものだったのだなぁ。と、来年に7回忌を迎える母を思っていたら、この作品が浮かんできたのだ。
【了】
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