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ばったり!
ナウス町駅のホームは、上下線が1本ずつの島式となっている。2本の線路の間にホームが挟み込まれている形式だ。
ガラスの天井がドーム状に覆い、壁を古びたコンクリートが塞いでいるが、構内には自動販売機や駅の看板、JRの路線図といったものが置かれているだけで、広々としている。
フェリはリルウの特徴である、ピンク色の髪をした少女がいないか、入念に見渡していた。
すでに駅に着いているのであれば、おそらく改札前にいるだろう、となんとなく考えていた。
そのなんとなく、が仇となった。
よく首を振って探し回るうちに、目が合った。
「お、フェリくんじゃーん! ミリキア見なかった?」
フェリは心臓が飛び跳ねて、喉から出てきてしまいそうになった。
「み、見てないけど?」
「あー、そう……」
リルウはスマートフォンで時計を確認した。
「ミリキア、また遅刻だな……」
「……相変わらずだな」
フェリは汗をかきながら、何の事情も秘めていない風を装った。
「そう。今日はね、罰としてジュース奢ってもらうことになってんの」
「へえ……懲りるといいな」
「ね。ホント、そう……」
リルウはそのまま視線を落とし、スマートフォンをいじり始めた。
フェリは腕を組んで俯いていたが、額から汗が垂れてきて、ホームの床に落ちた。それが気になって下駄をカタカタ言わせたり、髪をいじるフリをして、汗を袖で拭ったりした。
「フェリくん……?」
「……何だよ?」
気づけば、リルウと見合わせた顔が真っ赤になっていた。
「なんかヘンだよ。わたしと偶然会ったぐらいで、そんなに緊張しなくてもいいじゃん」
「き、緊張?」
「してるよ、絶対〜!」
リルウは彼の赤い頬と泳いだ目、そして汗まみれの顔と体が、いかに異様な姿かを見抜いていた。
そしてこういう彼の姿の裏には隠し事が秘められているということを、小学生の頃からの経験によって理解していた。
「わたしに会いたくない理由でも?」
リルウがフェリの肩に手を置いた。フェリは驚いて、震えながらその手を払いのけようとした。
「いや、絶対なんかあるでしょ!」
「……な、何もないよ」
「あるって。いつもならフェリくん、わたしと会ったら嬉しそうにしてるも〜ん」
「……今日は暑いからな。体を壊したんだ」
「へぇー……。体調悪いと、わたしのこと怖がるんだぁ〜?」
リルウはフェリの正面に立ち、彼の顔を覗き込むようにして両肩に触れた。
「よせって!」
手を緩めないリルウの横に、快速南船橋行きの電車が滑り込んできた。スピードを極限まで落とし、やがて止まった。
目の前のドアからは、ミリキアがこちらをのぞいていた。
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