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口裏合わせ
「ミリキア、遅刻だよ」
「ごめんなさい~!!」
ミリキアは、リルウの腕にすがりついて謝った。
「ほら、ジュース奢る約束……あれ?」
リルウは出発した電車の方向に首を向けながら、思い出した。
「ミリキアさ、昨日財布無くしたって言ってなかった?」
「あ、あれ? そんなこと言ったっけ?」
ミリキアはあちこちに首を振りながら答えた。
「言ってたよ。アンタがバカ騒ぎするから、下の階の自習室まで聞こえてた」
リルウが腕を組み、ミリキアを睨む。
「昨日、結局見つかったの?」
「ううん、見つからなかった」
「それでわたしにLINEしたね? で、わたしも知らないって言ったね」
「うん」
「もし見つからなかったら行くのやめようか? って聞いたらアンタ、『明日までに見つかるから、絶対行く!』って言ったよね?」
「……うん」
ミリキアの声が段々低くなっていった。
「このパターンだとアンタ、財布がなかったらわたしに言うよね?『ごめん、やっぱりなかった〜』って」
真面目に問いただす間にミリキアのモノマネを挟む姿に、フェリはなんとか吹き出すのを堪えた。
「見つかったから、今日来たってことだよね? 報告もなしに?」
ミリキアは目をつむり、静かにうつむいていた。まるで彫像のようにその姿は固定され、動く気配がなかった。
「……ホントは財布、あるんでしょ?」
「……」
「誰が持ってんの?」
リルウは相変わらず顔をミリキアに向けていたが、体の右半分はフェリの方向に少し動いた。
ミリキアは黙っている。
「……ねえ」
リルウはフェリのほうに完全に振り向いた。と思えば、彼に抱きついて服の中に手を突っ込み、躊躇なく体じゅうをまさぐった。
「どこにあんの、この子の財布!」
「触んなよ! キモイな……」
「出さないと脇の下、くすぐるよ!?」
「分かったからよせ!!」
しばらくして、小銭のいっぱい入った緑色の財布が懐から漏れ出した。
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