☆16. ドッペルゲンガー

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 日本人ではなかなか珍しいケースだと思う。実業家ならば、公私ともに忙しいはずで、パーティや親族の集まりも多いと考えられる。会いに行くのが月に一度でやっとだったのだろう。  七條の歴史を辿ってみて分かったのは、七條明氏は、実子を増やしまくることで起こりうる後継者争いよりも、七條のマインドを後世に残すことを望んでいたということだ。  ひとには優しくしろ。  自分を満たすよりも相手を満たすことを考えよ。  ……流石、戦後の混乱のさなかを生き延びた一族の言うことは違う。特に、戦後の極度の貧困を味わった世代なら、毎日ひもじくて、自分の空腹を満たすのが精いっぱいで、他人のことを思いやれる余裕などないのが普通。  それでも、七條は、分け与えることを正義とする。  混乱の時代を生き延びた父親の教えを守り、七條明氏は、一族を更に繁栄させた。  四度も結婚して元妻を別邸に住まわせ、更にはそのお子に頻繁に会いに行く。なかなか想像が難しい生活様式ではあるが、マスコミの報道や著書を追ってみても、七條では特に親族間の揉め事はない。七條グループは様々な会社があるし、よって、親族がいざ就職しようとしても勤め先に困らない。  膨大な財産が目の前にあろうとも、金に目を眩ませる人間などいない。  しっかりと、教え込まれているから。金が全てではない、と。
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