◆17. ドッペルゲンガー

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◆17. ドッペルゲンガー

 小学校の社会科の遠足でS県のお菓子工場の見学に行ったときのことだった。ぼくの通う私立小学校以外に、同じ日に見学をした学校があったらしい。  ぼくは天下の七條財閥の御曹司である一方で、父の女関係が原因で散々同級生や先輩にいじめられるので。この日もひとりで行動していた。  お手洗いを済ませ、手洗い場に立ったときだった。――自分がいた。  いや違う。彼は随分と……ぼくよりも色褪せたジャージを着ており、経済的に恵まれていないのは明白だった。横から見るぼくの視線に気づかぬ様子で彼は手を洗う。 「おーい(けい)。おまえいつまでいんだよ? ◯んこかよ」 「汚えなぁ」とその少年は笑った。手がビシャビシャなまま、彼はその場を離れ、「タケオはせっかちだよなぁ。なぁ、もうみんな集まってる?」  お手洗いの出入口に辿り着いた彼の声はこっちに聞こえる。タケオと呼ばれた少年は、彼の肩に腕を回し、 「アスカのあれ、おまえどうすんの? ……あいつおまえのことマジだぞ」  内緒ばなしのはずなのに丸聞こえだ。
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