Takayuki    101

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Takayuki    101

 ーーー家に帰り着きました  部活が終わって大急ぎでアプリを開いて、ホッとしながらそのメッセージを眺めた。  生徒会室から引きずられるように体育館に連れて来られて、部活自体もやたら厳しかった。坂井部長は珍しく練習の間中眉間に皺を寄せていて、大会に向けた気合を感じた。  キャットウォークにいる保科くんを何度か見られたけど、気付いたら17時半を過ぎていて、もうあの可愛らしい姿はそこにはなかった。 「貴之、今日も居残りすんの?」  将大がタオルで頭をがしがし拭きながら訊く。 「いや、今日はいいかな。ほぼ最初から来てたし」 「あー、はは、そっか。強制連行だったもんな」  後半は俺にだけ聞こえるボリュームで、ボソッと将大が言った。    普段なら皆が帰って空いているシャワー室で並んで、着替えを済ませて昇降口に着いたら、岡林と小野が待っていた。 「そーたくん! 秋川くん、おつかれー。あ、そーだそーだ、秋川くん。保科くんね、帰る時なんか…泣きそうな顔してたんだけど……」 「え?」 「ほら、坂井先輩が秋川くん連れて来ちゃったでしょ? だからじゃない?」  小野が「ごめんねー」なんて言いながら手を合わせた。別に小野が俺に謝る必要は何もないんだけどな、と思いながら頷いて応えた。 「そうでなくても帰る時はいつも、もっと見てたそうな顔してるもん、保科くん。でもちゃんと秋川くんの言いつけ守って5時半に帰るからエラいよね」  岡林が少し眉を歪めながら言う。数日前に見た、体育館から出て行く保科くんの細い後ろ姿を思い出した。  今日は見送りもできなかった。 「……可哀想なことしてんのかな、俺……」 「え? いや、それは…、だって遅くなると心配だから帰れって言ってんだろ? 貴之は」 「そう…だけどさ……」 「保科くんはちゃんと解ってるよ? 秋川くんの気持ち。だからちゃんと帰ってんだし」 「そうそう。ほんといい子だよね、保科くん。可愛くて」  うんうんて頷く岡林と小野が俺を見上げている。  坂井部長が来て、小野が「じゃあね」と手を振って、俺たちも帰路についた。  やや暗くなり始めた道、俺の後ろを将大と岡林が楽しそうに喋りながら並んで歩いてくる。  いいなぁ…って、やっぱり思ってしまう。 「なぁ、岡林はこの時間に帰って怒られたりしないの?」  2人の話の切れ目に振り返って訊いた。 「あれ? 言ってなかったっけ? ちょうどこれぐらいに帰るとね、駅で仕事帰りのおかーさんに会えるの。だから逆にこの時間がいいんだー」 「そっか……」  そういうパターンか。  ふーっとため息をついて、そこそこ混んだ駅の改札を通って階段を昇る。  俺、まだ保科くん家のこと何にも知らないもんな。  電車到着のアナウンスが流れて、ぎっしりと人の乗った電車がホームに滑り込んできた。ドアが開いて人が流れ出してくる。  将大が岡林を抱き抱えるように電車に乗り込んだ。  俺は2人から、そっと目を逸らした。
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