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「今日も俺、生徒会行けないけど保科くんはどうすることになってるの?」  昼休みの空き教室で保科くんを抱きしめて訊いた。  今日は松岡の方から「教室取っとく?」ってメッセージがきたからお願いした。 「あ、えっと、僕は20分ぐらい手伝うことになってます」 「そっか。生徒会の準メンバーって感じで周りに言っちゃったから、行かないわけにもいかないもんね」  柔らかい頬に口付けたら、俺を見上げていた保科くんの大きな目がゆっくりと閉じられた。赤みを帯びた唇は、誘うように少し開いている。    細い身体を抱きしめながら甘い唇に唇を重ねる。  ここは学校で、今は昼休みなんだということを忘れないようにと思うけれど溺れそうになる。  キスをほどいて見つめた保科くんの瞳は、危うい光を(たた)えていた。 「……弁当より保科くんとキスしてたい……」  小さい鼻にちゅってキスしたら、保科くんが俺に抱きついてる腕に力を込めた。 「……ぼくも…そうしたい、です……」 「ね、ほんとはね……」  見つめ合ってから、ぎゅうっと抱きしめ合う。密着した身体は速いスピードで血液を運んでいて、その振動と荒い呼吸で揺れていた。 「昨日、生徒会室から秋川先輩が連れてかれちゃった時は、ただびっくりしてた感じだったんですけど……」  ようやく食べ始めた弁当の中を見つめながら、保科くんがポツリと言った。 「帰る時間になってきたら、全然先輩が足りないなって思って。いつもよりもっと帰りたくなくて、生徒会の20分と体育館まで歩くのがすごい大事な時間だったんだって思っ……」 「保科くん……っ」  思わず保科くんを抱き寄せた。くっつけて並べた椅子が、ガチャンと音を立てる。 「……りたくなかった、でも…やくそくだから……」  高く掠れた、絞り出すような保科くんの声。 「うん、うん……。今日からはね、送ってくから……。最後まで見て、ね」  小さい頭を撫でて、潤んだ大きな目を見つめた。保科くんが、うんと頷く。  もう悲しませたくない 「電車がラッシュに入っちゃってる時間になるから、ちょっと大変だけどね」 「……そんなのへいき…です」  保科くんが左手を伸ばしてきて、俺の制服のシャツを掴んだ。 「…先輩と一緒にいられたら、全然だいじょぶ……」  うわ……、かわい……  抱きしめ合ったりしてるから、なかなか弁当が進まない。校舎のざわめきが大きくなってきて、時計を確認して2人して慌てて食べた。
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