Rin     105

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Rin     105

「保科くん、もうすぐ5時半になるよ」  岡林先輩が時計を見ながら教えてくれる。 「あ、あの、今日から最後まで見られるんです…っ」  そう応えながら顔が笑っちゃうの、止めらんない。 「わ! そうなんだぁ! よかったねぇ、てゆっかその顔秋川くんに見せたげたい」  岡林先輩も笑顔で応えてくれる。  えへへって思いながらまた柵から身を乗り出してコートを見下ろした。  ゲーム形式の練習が始まってる。  すごいな。ほぼずっと走ってるのにまだ走ってるし……。  ジャンプ、高いっ  先輩が空中を走ってる。僕に見えないだけで、透明の床があるんじゃないかとか思っちゃう。  格好いいなぁ… 秋川先輩  それにしてもほんとすごい、この声援! 体育館揺れてる気がする。  ピピーッとホイッスルが鳴って、バスケ部員が集合している。 「終わったねー。保科くんはすぐ帰るの? 秋川くんに会う時間はある?」  岡林先輩の向こうから、小野先輩が「ん?」って感じに首を傾げながら訊く。 「あ、あの……っ」  どうしよ、顔にやにやする。 「送って…もらうんですっ」 「え、えー?! そっかぁ、そうなんだぁ」 「うんうん、それがいいよ、1人危ないもん。じゃ、一緒に待とっか、ね」  岡林先輩と小野先輩がにこにこしながら、でもちゃんと声は潜めてそう言った。  下のコートから、揃った低音の「お疲れ様でした」なのかなって声が聞こえた。  あ! 秋川先輩上見た!! 「ははっ、嬉しそーな顔しちゃってさー」  岡林先輩が笑いながら秋川先輩と隣にいる橘先輩に手を振ってる。  僕も小さく手を振った。秋川先輩と橘先輩も手を振ってくれて、体育館を出ていく。 「よーし、じゃ昇降口行こー! 保科くん!」 「はい」  女の子でいっぱいだったキャットウォークは、気付いたらもうずいぶん人が引いていた。 「みんなね、次は昇降口出た所にいるよ。で、駅までぞろぞろ付いてくる感じ。でも秋川くんとか全然気にしてないみたいだけどね」 「…そ…ですか……」  なんかすごいな。あ、でも一緒に100円ショップに行った時もそんな感じだったっけ? 「見られすぎてマヒしちゃってるんでしょ。中学からそうだったってそーたくん言ってたし」  昇降口に着いて、それぞれ靴を履き替えながら喋ってる。 「気にしてらんないって感じなんだろうねー」  小野先輩がローファーを突っかけて苦笑いしながら、出入口付近にある傘立ての方に歩いてる。 「私も慣れちゃったけどね」  岡林先輩も同じように進んで、傘立てにカバンを置いた。 「橘くんも目立つもんね。バスケ部の2大スター」 「坂井先輩だってスターじゃん。てゆっか、うちのバスケ部派手だよねー」  あはははって岡林先輩と小野先輩が笑ってるところに、バタバタと足音が聞こえてきた。  あ! 「えー! 早くない? 秋川くん」 「いやだって……」  秋川先輩が2ー1の靴箱に向かって、靴を履き替えてタオルで頭を拭きながら僕たちのいる方に歩いてくる。ネクタイは首にかかったまま、結ばれていない。 「待ってもらってるから……」  ね、って微笑まれてドキンと胸が跳ねた。 「将大、俺の後でシャワーしてたからもう少しで来ると思うよ。坂井部長は顧問に呼ばれてたから、もちょっとかかりそうだったけど」 「おっけー」 「りょーかーい」  秋川先輩も傘立てにバックパックを置いて、その上にタオルをポンッと載せると壁にかけてある鏡の方に向かった。  タオルで拭いた髪を手櫛で整えて、ネクタイを締めていく。  大きな手が髪を梳くのも、長い指がスルスルとネクタイを結ぶのも、どこを切り取っても絵になっていて、オシャレなCMとかミュージックビデオの映像みたいだ。  かっこいーー……  息を飲んで見惚れていたら、秋川先輩が僕の方を見て「ん?」って首を傾げて微笑んだ。  どうしよどうしよ  心臓の音すごいし、顔あっつい  背後で「お待たせー」って言う橘先輩の声が聞こえた。  秋川先輩がゆっくりと近付いてきて、僕の耳元に唇を寄せる。 「保科くん、今すっごい可愛い顔してるから、ちょっと俯いてて、ね?」  ドドドドッと鼓動が強く跳ねて、心臓が口から飛び出しちゃうんじゃないかと思って唇を噛んだ。
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