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 来ないよな 来たらいいのに 来ないかな 来てほしい   毎日毎日、頭の中をぐるぐるとそんな諦めの悪い言葉が巡っていて、我ながらどうしようもないと思う。  告白してきてくれた女の子に「ごめんね」って言いながら、そう言われる側の気持ちを前よりもずっとリアルに感じられるようになって気が滅入った。  あの子がうちの高校に入学して、声をかけようとしたら背を向けられて、女の子と手を繋いで去っていく、そんな夢を毎晩のように見た。 「おいおい秋川、んな頑張って家帰り着く前にぶっ倒れんなよ?」 「だい、じょぶ……です……っ」  部活は、目一杯やる。走って跳んで、いっそ動けなくなるまで。  体力ゲージがゼロになって、泥のように眠りたい。  そう思うのに、更に体力が付いて疲れ果てるのに時間がかかる。 「まあ大丈夫ならいいけどさ。体力はいくらあってもいいしな」  自分だって化け物みたいに疲れ知らずの坂井(さかい)部長が笑った。 「結局毎週日曜に神社の階段昇ってんだろ?」  将大が隣を走りながら訊いてくる。 「……昇ってる」  なんなら平日も、時間があれば手を合わせに行っている。 「でも……」  神サマなんかいるのかよ 「でも、なに?」 「……なんでもない」  とりあえず体力と筋力は付いたけど、あの子と街でばったり、なんてことはない。  会いたいなぁ  会えないのかなぁ  このままこの気持ちが消えなかったら、俺はどうすればいい?
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