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T 111
「はは……、そっか」
「ん? どした? 貴之」
「いやさ、今の俺があるのは保科くんのおかげなんだなぁって……」
「え? あ、あーー……。そうか、神様案件か。あの頃の貴之マジ鬼みてぇに練習してて付いてけなかったもんなぁ。差がついたのはあの時期だな」
将大が苦笑しながら言った。
「……大事にしなきゃなぁ、もっと」
「してるだろうよ、毎日家まで送って」
「それは俺の安心のためってのが大きいから……」
「はは、溺愛だ」
シャワーの順番がきてブースに入った。頭からぬるい湯を浴びる。
そりゃするだろ、溺愛
やっと手に入れた、大事な大事な恋人だ。
できることなら片時も目を離さず、この腕の中に抱きしめていたい。
コックをキュッと閉めて大急ぎで身体を拭く。
早く保科くんに会いたい。
さっき姿を見たけれど、あの可愛らしい顔を早く近くで見たい。
「将大、先行くぞー」
「あん? オッケー、つか早っ」
ははっと将大が笑う。
髪を拭きながら昇降口に着いて、いつも保科くんたちがいる出入口近くの傘立ての辺りに目をやった。
あ! 保科くん!
笑…っ かわ……っっ
保科くん、最初っからこっち見てた。てことはずっと俺が来る方向見て待っててくれたってことだよな。
ああもぅ、ちょっと無理……っ
「秋川先輩お疲れさ…!」
「あはは、どしたの秋川くん。補給?」
岡林と小野が笑ってる。俺の腕の中で保科くんが息を飲んだ。
「……ありがとう、保科くん」
ぎゅうっと抱きしめながら囁くと、保科くんがぴくっと身動いだ。
「…せ…んぱい……?」
困ってる声が可愛い。
「秋川くんが保科くんに甘えてるー。いいね、甘えるイケメン」
「何したっていいよ、イケメンは」
あははってまた2人が笑ってるけど、俺はどうしても保科くんに言いたいことがある。
「保科くん、うちの学校に見学に来てくれて、入学してくれてありがとう。それから……」
ここから先は保科くんにだけ伝えたいから、赤くなった耳元に唇を寄せた。
「俺と付き合ってくれてありがとう」
「……!」
不意に保科くんが俺のシャツをぎゅっと握った。
「お待たせーっと、理沙ーっ」
「わ、そーたくん、お疲れ」
「朋美ー! 待っててくれてサンキューな」
「あはっ、んーん、全然平気ー」
「なんだなんだ、いいな男バス恋人いる組。みんなしてハグタイムかよ」
え?
落としていた視線を上げると、将大は岡林を、坂井部長は小野を抱きしめていた。
「おれらはぁ、明日から大会なの。おれは負けたら引退だからさ、こやってエネルギーチャージしてるわけ」
坂井部長が抱きしめた小野の頭にキスをした。
「はいはいはい、分かった分かった。あんま見せつけんな、羨ましい。あー、おれも可愛い恋人ほしー!」
坂井部長の友人の3年生が、笑いながら手を振って昇降口から出て行った。
それを見送った坂井部長の表情が、フッと真面目なものになる。小野の頭に頬を寄せた。
「ぶっちゃけ過去最高が4位だからさ、目標は3位なんだよなー……」
それは、そこで3年生が引退してしまう、ということだ。
「全国の壁は厚いぞー?」
そう言ってまた小野をぎゅうっと抱きしめた坂井部長は、もういつも通りの余裕の表情に戻っていた。
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