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T 112
「おーっし、チャージ完了したらおれらも帰ろうぜー」
と言いながら坂井部長が小野を抱き上げて、くるっと一回転する。小野が「きゃー」って言いながら部長にしがみついた。
坂井部長たちは手を繋いで、将大は岡林と腕を組んでいつも通り帰路についた。
俺は保科くんの肩を抱く。
保科くんの腕が俺の腰に回った。シャツを引っ張られる感覚まで愛しい。
「あの、秋川先輩」
大きな目が俺を見上げた。
「ん?」
「なんで背中とか叩かれてたんですか?」
遠慮がちの口調と、心配気な表情が可愛らしい。
「うん、あれはね、きっちりやれよってことかな」
大丈夫だよって細い肩を抱き寄せたら、前を行く将大が振り返った。
「あと、新部長頑張れよってことだよ、保科くん」
「え?」
将大がニヤリと笑う。
「んー? なに、お前ら的にはそんな感じ?」
坂井部長も振り返って立ち止まった。
「やっぱ、おれは貴之がいいと思うんすよね、部長は」
「将大っ」
保科くんが見上げてくる視線を感じる。
坂井部長が顎に親指を当てて考え込む顔をした。
「おれ的にはー、どっちもアリっつーかどっちも見てみてぇ感じだけど。そだなー、あえて、なら秋川が部長かな」
そう言って、ニカッと笑った坂井部長がまた前を向いて歩き始めた。将大も「な?」な顔で俺を見て、そして駅へと歩いて行く。
「秋川先輩、部長さんになるんですね」
保科くんがにこっと笑って言う。
「…そう、みたいだね」
無意識にため息が漏れた。
「いや…ですか?」
きゅるんとした目で保科くんが訊いてくる。
「まぁ、嫌ってわけじゃないけど」
ちょっと面倒くさいだけで。
「僕は、いいと思います。秋川先輩って、付いていきたくなる人だから……」
「ん?」
保科くんが俺のシャツを握り直した。引っ張られる感じが少し強くなる。
「この人に付いていけば大丈夫って思える人だと思うんです、先輩は」
上目遣いで俺を見上げる保科くんの頬が、夕暮れの薄闇でも赤く色付いているのが分かった。
「……保科くんは、俺に付いてきてくれるの?」
戯れに訊いてみたら、保科くんは大きく頷いた。そしてまた俺を見上げる。
「だって…ずっと一緒、でしょ?」
あ、ちょっとタメ口 かわいい
「うん、そうだよ」
天国までも一緒に行こう
保科くん家で保科くんのお母さんが出てきて「明日頑張ってね」と言われたのが、なんかやたら面映かった。
帰る途中ですれ違った男の人に一応会釈をしたら、後ろから「あら、お父さんお帰りなさい」と保科くんのお母さんの声が聞こえて、心臓が止まりそうになった。
さっきの、保科くんのお父さんだったのか……っっ
…よかった、会釈して……
少し振り返ったら、保科くんが玄関の窪みからちょっと顔を出してた。表情までは見えないけど、たぶん焦った顔してるんだろうなって思った。
乱れ打つ心臓を宥めながら駅まで歩いた。
この道もずいぶん慣れた。
そういえば、大会が終わって生徒会に行くようになったら、帰りどうなるのかな。あと30分遅くなるのは、保科くん家的にどうなんだろう。
ダメって言われたらどうやって説得しようか。
バスケの戦略を練るより難しい。
でももう1人で帰すのも1人で帰るのも嫌だ。
ガタンと電車が揺れてハッとした。
マズい。独りよがりな考え方になってる気がする。
保科くんは俺の『物』なわけじゃない。俺の気持ちを押し付けてはいけない。
難しいな、恋愛
でももう知らなかった頃には戻れないし、戻りたくもないから
ふぅ、と一つため息をついた。電車が家の最寄駅に停まる。
大会が終わったらきちんと保科くんと話し合おう。
せっかく手に入れた宝物を、この手から取り落としてしまわないように
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