Rin     113

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Rin     113

 熱気がすごい!!  中学の頃、内野の応援でサッカー部の大会を観に行ったこともあるけれど、なんか全然違う。  中学と高校っていう違いと、屋外と屋内って違いなのかな。 「やっぱすごいなー、ねぇ琳ちゃん」 「うん……っ」  今日は眞美ちゃんも観に来てる。  1日目の土曜日はうちの学校が会場になっていた。色んな高校の制服が入り乱れていて変な感じがする。  僕たちは今日もキャットウォークからコートを見ていた。 「秋川くんがいるとね、こんな感じよ、いつも」  岡林先輩が笑いながら言った。 「ですよねー。あたしも中学の時、第二中の試合観に行きました。女子で集まって。すごかったです、もう満員で」  え、そうだったの?! 眞美ちゃんっ 「そうそう、あと橘くんもね。あたしバスケ好きだから中学からあちこち観に行ってたけど、やっぱあの2人がいると盛り上がるっていうか、観客の数がそもそも違うのよね」  僕と岡林先輩を順に見て、小野先輩が言った。  大会に出られるメンバーは3年生が中心で、でも秋川先輩と橘先輩は2年生ながら15名の選手に入っていた。 「あの2人、去年もあのユニフォーム着てあそこに立ってたからね。すごいよ、ほんと」  小野先輩がコートを見下ろしながら言う。 「だから、秋川くんと橘くんが次期部長、副部長で文句言う人なんて誰もいないと思うって、坂井先輩が言ってた」  ふふって笑いながら小野先輩が僕を見た。  眼下のコートでは、坂井先輩が皆に何か話しかけている。  秋川先輩もいる。  立ってるだけでめちゃくちゃ格好いい。  あ、こっち見た……っ  笑……っっ  周りがうわっと盛り上がった。「キャー!!」って女の子たちの歓声が上がる。 「すご…っ、ちょっと笑っただけなのにね」  眞美ちゃんがなんか引き攣った笑顔で僕を見た。 「ほら、秋川くんアイドルだから」  岡林先輩が笑う。  試合が始まると体育館内が緊張に包まれた。トーナメント式だから、負けたらそこで終わりになる。  秋川先輩と橘先輩はベンチスタートだった。  小野先輩は相手チームのこともよく知ってて、色々解説してくれた。 「あ! ほら琳ちゃん、秋川先輩出てくるよ!」 「うんっ」  3年生と交代で秋川先輩がコートに入った。会場全体がぶわっと盛り上がって、歓声と拍手の塊に身体を押される感じがする。  バッシュの擦れる甲高い音。床を蹴る力強い足音。ボールの音。  速い! 全部速い! 音も動きも!  秋川先輩の姿を必死で目で追う。先輩はキラキラ輝きながらコートの中を縦横無尽に走っていて、一瞬も目が離せない。  瞬きするのもったいない!  全部全部見たい!  どこから?!と思うボールを受け取った秋川先輩が空中に駆け上がる。  ゴールを阻止しようとする大柄な選手を避けて、長い腕がボールをゴールリングに導いた。ボールがリングを通過して白いネットが揺れる。  体育館が揺れるほどの拍手と歓声が上がった。 「やっぱ、そーたくんと秋川くんのコンビ最強ーー!!」  岡林先輩の嬉しそうな声。  そっか、秋川先輩にパスしたの、橘先輩だったのか。  秋川先輩しか見てなかったから分かんなかった。  あ……っ  走るのをやめた秋川先輩が、軽く頭を下げてコートから出ていく。その視線が上を向いた。  目、合った……っ  うれし……  あ、先輩呼ばれちゃった? 視線外れちゃった。  秋川先輩を目で追って追って、息も上手くできない。  一歩も動いてないのに、全力で走ってるみたいに心臓が跳ねていた。  秋川先輩はコートに入ると誰よりも速く走って、誰よりも高く跳んだ。  格好よくて格好よくてどうしよう!    どうしようっ  あの格好いい人、僕の恋人なんだよ?!  練習で何回も見た遠い位置からのシュートが、練習の通りキレイに決まった。  着々と点数が開いていく。  ピーッと鋭くホイッスルが鳴って1回目の試合が終わった。  勝った……! 「勝った勝った! やったねー」  岡林先輩の弾んだ声が聞こえてる。 「当然よ! 今日は全部勝つんだから!!」  強い声で小野先輩が言った。 『おれは負けたら引退だからさ』  坂井先輩の言葉が甦る。 「坂井先輩はね、バスケやってる時が一番カッコいいのっ」  赤い唇をぐっと噛み締めた小野先輩の目が赤く潤んでいる。 「…うん、うん! そう! 全部勝つ!」  岡林先輩が小野先輩を抱きしめて力強い声で言うのを、僕は見ていることしかできなかった。
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