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 午後の最後の試合。  小野先輩は両手を祈りの形で組んで、じっとコートを見下ろしていた。  力の入った指先は白くて赤くて、その手を揺らしながら大きな声で坂井先輩の応援をしていた。  僕は柵にしがみついて一生懸命見た。  ゴールを決めた秋川先輩に、手のひらが痛くなるぐらい拍手を贈った。  そんなんで足りるとは思わないけど、精一杯手を叩いた。  拮抗していた試合が、徐々に傾いてくる。  坂井先輩が立て続けに二度シュートを決めて、橘先輩が相手高のシュートを弾き飛ばした。秋川先輩のスリーポイントシュートがスパッと決まる。  相手高のタイムアウトで試合が止まった。  でももう流れはこっちにきてる。  再びタイマーの数字が動き始め、体育館に足音が響いた。  この試合に勝った方が、明日の試合に進める。  勝ってるけど、点差は大きくは広がらない。  試合時間を刻むデジタルタイマーの進みを遅く感じた。  3年生の小柄な選手が床すれすれの低いドリブルで駆け抜けて行って、前を向いたまま左後ろにいた秋川先輩にパスを出した。そのままスリーポイントシュートを打つように投げられたボールを、跳んできた坂井先輩が掴んでシュートする。  一連の動きはまるで、(あらかじ)め動きが決められている映画のワンシーンのようだった。  どれぐらい一緒にいてどれぐらい練習したら、あんな風に相手の動きが読めるんだろう。  相手高の選手が、コートの真ん中辺りからヤケクソみたいにゴールに向けてボールを投げた時、試合が終わった。  わぁっと体育館が割れそうなほどの歓声が上がって、大きな拍手の音が嵐のように渦巻いた。 「勝ったー!!」って岡林先輩と眞美ちゃんが叫んだ。  僕は柵から身を乗り出した。  秋川先輩が足を止めた。  あっ 「秋川せんぱーい!!」   こんな声援の中じゃ聞こえないって分かってるけど呼びたかった。  秋川先輩が僕の方を振り仰いで、微笑みながら手を振ってくれる。 「キャーッ!!」って悲鳴みたいな声が上がった。
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