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 1日目の日程が全部終わって外に出ると、梅雨時特有のしっとりとした風が吹いていた。体育館の中の熱気がすごかったから、それでも涼しく感じられた。  体育館の周りにはまだ、たくさんの他校の女の子たちが数人ずつの固まりになって残っている。  少しすると、長身揃いのバスケ部員たちがぞろぞろと出てきた。残っている女の子たちの視線が一斉に集まる。 「朋美ー! 勝ったぞー!!」  って坂井先輩が大きな声で言って両手を広げると、小野先輩が走って行ってその胸に飛び込んだ。ピューッと誰かが口笛を吹いた。  バスケ部員の友達や恋人たちが合流して大きな集まりになってる。  橘先輩も岡林先輩を抱きしめた。  秋川先輩は僕を見下ろして、困っているような少し淋しそうな、複雑な微笑みを浮かべている。  坂井先輩が「みんなありがとう! 明日もよろしく!」と言うと、みんなが「おー!」って返事をした。  明日は、今日それぞれの地区で1位になった高校が集まって試合をする。そこで1位になったら県代表で全国大会なんだそうだ。  駅までみんなでぞろぞろ歩いた。他校の女の子がいっぱいいるからか、秋川先輩は僕の肩を抱かなかった。  電車はいつもより空いてたから出入口付近に立つことができた。 「保科くん、駅に着いたら先に降りて階段に向かってもらえる? 俺ギリギリで降りるから」  僕の耳元で秋川先輩がコソッと言う。 「付いて来られたら厄介だから……。ごめんね?」  うん、て頷いてから、ううんって首を横に振った。  言われた通りに電車を降りて階段に向かって歩く。発車ベルが鳴って電車を振り返った。  秋川先輩がニッと笑う。  ベルが鳴り終わって、一呼吸でドアが動く。  先輩はその一呼吸のタイミングで電車から降りた。  プシュッと音を立ててドアが閉まる。  車内の女の子たちが「あ!」って顔をして秋川先輩の後ろ姿を目で追った。  橘先輩と岡林先輩が笑ってる。  秋川先輩は電車が動き出すのを待ってから、ゆっくりと僕の方に歩いて来た。 「行こっか、保科くん」  そう言いながら、秋川先輩が僕の肩に腕を伸ばした。  あれ? でも…なんかちょっと違う…… 「保科くんが知り合いとかに会っちゃうかなと思って、ここでは肩組まないようにしてたんだけど……。ごめん、ここまでは許してほしい」  いつもはもっと、肩にかかってる手が僕の身体に沿っているけれど、今は軽く握った手が肩に乗ってる感じ。  友達同士はたぶん、こんな感じ。    僕の知り合いに会っちゃったら、とか、そんなことまで考えてくれてたんだ、秋川先輩。  やっぱりすごい 「あ、そういえばさ、保科くんを送ってくの、ラッシュになるからと暗くなって危ないからってことにしてたけど、今日どっちもないよね」 「あ……そう、ですね」  秋川先輩が「しまった」みたいな顔で僕を見た。 「どうしよ。何か別の理由考えた方がいいかな」  先輩が眉間に皺を寄せて考え始めた時、僕のポケットの中でスマホが震えた。一応確認する。  お母さんだ。  ーーお父さんとトイレットペーパーのタイムセールに行ってきます!  え!! 「せんぱ…っ、お母さんたち出かけるっ」 「え?」  秋川先輩に「ほらほら」ってスマホの画面を見せた。2人で顔を見合わせる。 「これは……、駅前に出てくるって感じ?」 「たぶん…だと思います」 「すれ違っちゃうかな、送ってくと……」 「あ、じゃあ別の道、遠回りになっちゃうけど」  こっち、と先輩を誘導する。一気に胸が跳ねてくる。  ドキドキ ドキドキ  
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