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『保科くんて朝、どの電車に乗ってるの?』 「え?」  放課後ずっと一緒にいたし、夜の電話はもしかして無かったりするのかなって思ってたけど、秋川先輩はいつもの時間にメッセージをくれて、そして電話をかけてきてくれた。 『朝練ないから朝も会えるんだって今頃気付いてさ。あ、でも保科くんが面倒なら……』 「7時41分の電車に乗ってます!」  つい食い気味に応えてしまった。先輩がくすっと笑うのが聞こえた。 『そっか、うん。じゃあそれに合わせるよ』 「はい!」    いつも乗ってる車両を訊かれて、でも何号車か分かんなくて駅の乗車ポイントを伝えたら、秋川先輩は「分かった」って言ってた。  そっか、送ってきてくれてるから……。  朝から会えるって思ったら嬉しくて楽しみで、なかなか眠れなかった。 「琳ちゃんおはよー!」  駅までもう少し、という所で声をかけられた。 「あ、眞美ちゃん、内野、おはよー」 「はよ、保科」 「そっかー、そうだよね。昨日も内野いたもんね、朝」 「なんだよ」 「ううん」  朝は会えないって思い込んでたから思い付かなかった。  先輩も夜になって気付いたって言ってた。  駅の階段を昇って降りて、いつものポイントで止まった。ちょっと背伸びして電車の来る方向を見る。  ドキドキ ドキドキ 「なに? 琳ちゃん、そわそわしてー、って、あ、もしかして」  次の電車がもうすぐ到着する、という電子音の合図が聞こえた。  遠くの方にいつもの銀色の車体が見えてきて、そしてどんどん近くなり、ホームに滑り込んできた。 「「あっ!」」  秋川先輩! いた! 「やっぱりー」って眞美ちゃんが笑う。  電車が停まってドアが開いたら先輩が下りてきた。 「おはよう、保科くん、山田さん、内野くん」 「「おはようございます」」 「……ます」  挨拶しながら電車に乗り込んでいく。秋川先輩の手が肩に乗る。  内野がそれをチラッと見た。  ちょっと視線が鋭い……?  混み合う車内に橘先輩と岡林先輩もいた。秋川先輩が高い位置の手摺りに掴まって、僕に「どうぞ」って肘を向けた。  ここは僕のところ  えへへって思いながらその腕にぎゅうっと掴まった。  薄いシャツ越しの先輩の体温と筋肉の感触。  この腕で抱きしめられたい  なんて思いながら電車を下りて、肩を抱かれて学校への道を歩く。  どんどん欲張りになっててやばい  途中で芽依ちゃんが「おはよー」ってやってきて、内野が「オレちょっと……」ってサッカー部の仲間の方へ小走りで向かった。芽依ちゃんが眉を下げて唇をふにっと曲げてて、眞美ちゃんは困ったように笑っていた。 「またお昼にね」 「はい」  秋川先輩に手を振り返しながら「あ」と思った。  あれってどういう意味だったんだろうって思って、先輩に訊こうと思ってたのに、会えるのが嬉しくて頭から飛んでた。  今度こそ訊かなきゃ  先輩あの時、どうしてあんな顔したのかなぁ……?
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