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 毎日保科くん家に寄って一緒に勉強して、土曜は母のたっての希望で保科くんにうちに来てもらった。朝からミストのような細かい雨が降っている。 「…か……っっっ」   玄関ドアを開けて保科くんを招き入れると、出迎えに来ていた母が両手で口元を覆って固まった。 「え? こんな? こんな可愛い子いる? え、え、貴之ちょっと待って……」 「母さんあの、恥ずかしいんだけど……」  緊張でガチガチだった保科くんが、今度は困惑の表情を浮かべてて可愛い。 「だってほんと可愛い……っっ」  母の反応を見ながら、ああ俺、この人の遺伝子持ってんだなって改めて思ってしまった。初めて保科くんを見た時の俺の頭ん中もこんな感じだった。 「ごめんね、保科くん。びっくりさせて」  保科くんを部屋に通すと、ミルクとココアも一緒に入ってきた。 「あ、いえ。うちの母も先輩見てイケメンだーって騒いでたし」  しゃがみ込んで嬉しそうに猫たちを撫でながら見上げてくる保科くんが、めちゃくちゃ可愛い。 「そうだっけ? あ、そっか、俺その時の記憶ないんだ」  俺もしゃがんで2匹の頭を順に撫でた。 「僕もさっき挨拶したかどうか覚えてません……」  そして、しょんぼりした顔をしてる保科くんの頭を撫でる。 「大丈夫。しっかり挨拶してたよ? ていうかうちの母がヒドかったからね」  今日は雨だけど、保科くんの髪はいつもとあまり変わらない。湿気で膨らんだりするタイプじゃないらしくて、ややしっとりしたサラサラの髪は普段通りの手触りだ。  ずっと触っていたくなる。  しかも保科くんはすっかり俺に身を委ねてる。  ちょっと……やばい 「飲み物取ってくるから待ってて」  切り替え切り替え  今はテスト勉強をきちんとやらないと  自分の、そして保科くんの成績も落とすわけにはいかない。  勉強中の水分補給ならジュースより麦茶がいいだろうと思ってグラスに注いだ。 「貴之、そこのクッキー持ってっていいわよ」 「あ、うん。ありがとう」  グラスとクッキーを載せたトレイを持って部屋に戻って声をかけると、保科くんが「はい」と返事をしてドアを開けてくれた。  ふわっと胸の中が暖かくなる。  なんだろう……これ…… 「? どうしたんですか?」 「……うん、あの……」  大好きな保科くんが俺のためにドアを開けてくれた。 「幸せだなぁって……」 「え?」 「ありがとね、保科くん」  不思議そうに俺を見上げていた保科くんが、にこっと笑った。  やっぱ天使!  トレイをデスクに置いて、ドアを閉めてくれた保科くんをぎゅうっと抱きしめた。俺たちの足元をミルクとココアが柔らかい身体を擦り寄せながらぐるぐる回る。 「テストが終わったらさ、休みの日に保科くんとべったり一緒にいたい」  一つ年下の恋人に頬を寄せて甘えてる。  どうしようもないな  保科くんが俺の背中に手を回してぎゅっと抱きついてきた。 「……僕も、おんなじこと考えてました……」  少し掠れた高めの声にゾクッとする。 「嬉しいな。どっか行く?」  なんて言いながら、ほんとは誰もいない家が…… 「…家がいい……です……」  え  更に力強く保科くんが俺を抱きしめる。そうだ、男の子なんだって思う強さで。 「…せ、先輩と、2人がいい……っ」  ボートネックのボーダーシャツから覗く首が赤く色付いている。  ドクンと心臓が爆ぜた。 「…俺も、保科くんと2人っきりでしたいことがあるんだけど……」  腕の中の保科くんが息を飲んだ。そしてゆっくりと俺を見上げる。  大きな目が潤んでいる。目元はうっすらと赤い。  やば……っ
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