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 思わず息が止まって、そして努めてゆっくりと息を吐き出した。身体の中を熱い血液がドクドクと巡っていて、今にも暴走しそうになっている。 「ちょっとごめん……っ」  保科くんの肩に頭をつけて、目を閉じて深呼吸を繰り返した。保科くんからは爽やかなシトラスの香りがしている。足元でミルクが「にゃあ」と鳴いた。  保科くんの細い手が俺の背中をゆっくり撫でてくれて、反応しかけた身体が少しずつ落ち着いてくる。  細い肩から頭を上げて、見上げてくる保科くんと額を合わせた。 「……勉強、しなきゃいけないのに……。ごめんね、ほんと……。駄目だなぁ、俺……」   切り替え、全然できてない  ううん、って僅かに首を横に振った保科くんの動きが、猫っぽくてすごく可愛い。 「…先輩、全然ダメじゃないけど……、ダメでも大好き……」  じっと目を見て囁かれて、我慢できずに口付けた。二度目に角度を変えた時、グラスの中の氷がカランと鳴ってハッとした。  唇を離してもう一度見つめ合う。 「俺も、保科くんのこと大好きだよ」  細い身体をぎゅうと抱きしめた。 「…ねぇ保科くん……。家で2人っきりのタイミングがきたら……、抱きたい……」  背中に回った保科くんの手が俺のシャツを掴んだ。 「……どうかな?」  腕の中で保科くんが頷いた。頷いて、俺の胸に顔を擦り寄せてくる。  耳、真っ赤……  たぶん俺も……  ゆっくりと腕の力を緩めていく。保科くんがゆっくりと俺を見上げた。 「じゃあ…勉強しよっか……ね?」  唇をキュッと結んだ保科くんが、照れた顔でうんって頷いた。  めちゃくちゃ可愛い  やっと身体を離して、出しておいた折り畳みテーブルに向かい合って座った。  教科書やノートを開き始めると、猫たちが待ってましたと言わんばかりにテーブルに飛び乗った。 「ネコハラだー」  ノートの上に座ったココアを撫でながら、嬉しそうに保科くんが言う。 「勉強できないね、外出す?」 「だいじょぶです。テスト範囲、一通り終わってるし。先輩が教えてくれたから」  ねーってココアに話しかけて、えへへって笑う保科くんが可愛い。  猫たちの相手をしながら勉強して、母と3人で昼食を取った。  保科くんは緊張してて、母ははしゃいでいた。 「そうだ貴之。夕方に向けて雨が強くなるらしいから、早めに保科くん送ってあげなさいね。最近の雨ひどいから」 「分かった。ありがと、母さん」  窓の外はどんよりとした雲が広がっていて、しとしとと雨が降っている。 「今はねー、久々に梅雨っぽい降り方してるけど」  母が空を見上げながら言った。
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