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 ドキドキ、ドキドキ胸がうるさい。 「あ、君、受かったんだね、おめでとう。お名前は?」  やっぱり咄嗟に気の利いたことなんか言えない。声がひっくり返らなかっただけ上出来だ。    ていうか大丈夫だったのか?今ので。怪しかったか?!  何ヶ月も前の、ほんの数十秒の出来事を覚えてるって、もしかして怖い?!  やばいっ! うわっ、頼む、怖がらないで……っっ!  頭の中がぐるぐるしながら、どうにか笑いかけてみた。  うわ可愛いーーーー……っっ  夢にまで見たあの子が、まん丸の大きな目で俺を見てる。  ほんのりと頬がピンクになってるの、ほんとめちゃくちゃ可愛い。  よかった、「何この人」みたいな顔されなくて。 「……あ……の……」  男子にしてはちょっと高めの掠れた声が、小さめの口からこぼれた。  声かわい…… 「うん?」  可愛くて目が離せない 「……ホシナリン……です……っ」    あーっ 可愛い可愛いっ  声めっちゃ可愛い 名前も可愛い 「ホシナリンくんね」  どんな字だ? 「……あ、あった」  これか。  保科琳  名前の漢字まで可愛らしいな。 「1年4組だよ」  まさか来るなんて、しかも名前も分かって、話しもしてしまった。  チェック入れるのがシャーペンだったら絶対芯折ってる。  神様、いるのかよなんて思ったこと、謝ります。ごめんなさい。 「はい、これを持って昇降口で自分の靴箱に靴を入れて、体育館に行ってください。矢印通り行けば大丈夫だからね」  プリントを渡す手が汗ばんで、しかも震えてしまいそうになった。  ありがとうございます、神様。本当にありがとう。  保科くんはプリントを受け取って、でもまだ俺の前にいる。  どうしたのかな? 俺の説明解りにくかった?  ん?って思っていたら、 「保科、行くぞ」  隣で受付をしていた男子生徒が、保科くんの腕をぐいと引いた。……そして。  え?  一瞬、俺のこと睨まなかったか?  ……気のせい、だよな?  睨まれる覚えもないし、普通いきなり先輩にガンつけたりしないだろう。  ふわふわしていた気分がスッと冷えた。  さっきまで保科くんの立っていた所に、次の女子生徒が立っている。  すっと息を吸い込んで、ふぅと吐き出す。  そうだ、仕事仕事。 「入学おめでとう。お名前は?」  それにしてもラッキーだったなぁ。  でも保科くん、絶対うちは本命じゃないと思ったのに、あの体験入学の後で何があったのかなぁ。 「秋川くん、ごめん」  何人か受付を済ませた時、後ろから肩を叩かれた。 「大沢先輩?」 「私と交代。流れが滞っちゃってるからね」 「え?」    くいっと腕を引かれて、大沢先輩と入れ替わった。周りがザワッとした。 「やっぱこうなるよねー」  渡部先輩が少し振り返って俺を見て、苦笑いをした。  やっぱ、って? 「秋川くんとこ、女の子で大渋滞」  そういえば、ずっと女子ばっかりだった。    列が延びてるのは気付いてなかった。名簿と目の前にいる新入生しか見てなかったから。  正直なところ、頭の中は保科くんでいっぱいで、周りを見渡す余裕なんか全然なかった。  とりあえず体育館に行くか。  保科くんの席、4組のどのへんかな。  俺が椅子に名前貼ったの、1、2組だからなー。  体育館後方の入口から入って、4組の席の近くに立っている会長を目指して歩く。  4組の近くを通れる。ラッキー、って。  あ、あれ、保科くんだ。端の席。  きょろきょろしてる。かわいー……。  できることなら、ずーっと見ていたい。  まあ、そういう訳にはいかないんだけど。  会長が興味本位で俺を受付に立たせたと分かっても、むしろそれで良かったと思った。  おかげで保科くんと話せたし。  今日は神社に寄ってから帰ろう。少し遠回りになるけど。  お賽銭、奮発して百円入れて感謝を伝えてこよう。  うわー、でもそうか。  保科くん、うちの高校に来たのか。  入学式の間中、心臓がとくとくと跳ねていた。  自分の立ち位置が保科くんより前なのが、とても残念だった。    
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