Rin     130

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Rin     130

 うわあぁ……っっ!  やっぱすっごい格好いいっっ!  2週間ぶりの、バスケしてる秋川先輩。 「保科くん、目がハートになってんな」 「え……っ」  隣に立ってる坂井先輩がガハハって笑った。    テストの間は、朝も会えるし夕方一緒にいる時間も長い。  ただ勉強するだけでも、ずっとそばに秋川先輩がいるのはすごく嬉しい。  …でも  それとおんなじくらい、バスケしてる先輩を見るのが好き  強い目をしてボールを追いかけて、走って跳ぶ先輩をいつまでもずっと見ていたい。  大好き 「えー、じゃあ新部長から一言もらいまーす。秋川部長!」  1日の練習が終わって、部員が集まったところで橘先輩がそう声をかけた。 「そーたくんはね、最初に挨拶したんだよ。すっごい短いやつ」  岡林先輩がクククッと笑いながら言った。  秋川先輩が肩にかけたタオルで顔を拭きながら軽く頭を下げた。 「えっと…、部長をすることになりました秋川です」  ちょっと緊張した感じの秋川先輩の声が体育館に響く。 「俺はたぶん、坂井部長みたいなみんなをグイグイ引っ張っていくっていうパワフルさには欠けると思います。でもみんなの先頭を走れるように精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」  再び頭を下げた秋川先輩に、部員全員が拍手をしていた。 「秋川は『俺についてこい』タイプかぁ。いいね」  坂井先輩が腕組みしながら言った。 「『ついてこい』なんて言われなくてもついてっちゃうよねぇ、あの背中には」  岡林先輩に「ねぇ」って言われてつい頷いたら、ふふふって笑ってた。 「秋川さぁ、どんどん変わるよなぁ。ホームマッチん時とかビビったし。3年にあんなに向かってくるとは思わなかったからさ。橘もだけど。目がマジだったし、絶対負けらんねぇって顔してさ」  目下のコートでは顧問の先生の話が終わって「お疲れ様でした」って言ってるんであろう挨拶がされてた。 「あの時はどうしても勝ち進まなきゃいけなかったんですよ、2ー1は」  岡林先輩が坂井先輩にそう言って、僕に「ね」って言った…けど。  でも分かんない  どこのチームも1位を目指してて、秋川先輩たちは強くて、だから勝ち上がっていったんじゃなかったの?  そう思って岡林先輩を見たら、またふふふって笑った。 「2ー1が勝ち残ってれば、1ー4と決定戦で当たるかもしれない。そしたら保科くんが応援に来るだろうから近くで見られる。たぶん秋川くんはそんな風に考えてたんだと思ったんですよねー、私は」 「え?」 「あ、なーるほどな。で、あの気迫。かわいーやつ」  坂井先輩があははと笑った。  全体の練習の終わったコートに秋川先輩と橘先輩だけが残ってる。  秋川先輩がスリーポイントラインより遠い位置からシュートを打ってて、橘先輩はそれを見ていた。  ……そう、なのかな  ホームマッチ、秋川先輩そんなこと考えてたのかな 「おれ、部員のゲームはなるべく見てたけど、秋川と橘はマジで良かったんだよなぁ。負けたもんなぁ、くっそ」  チッと舌打ちして、坂井先輩がババッと頭をかいた。そしてスッと屈んで僕を見た。 「すごいな、保科くん」 「え?」 「だって秋川の原動力は保科くんだろ? あいつ強くしてくれてありがとな」  ニッと笑った坂井先輩が小野先輩に「帰るか?」と言って、小野先輩が頷くと「お先にー」と言って帰って行った。 「……僕はなんにもしてないのに……」  秋川先輩が強くなったのは、先輩がすごく努力してるからなのに……  秋川先輩の放ったボールがスパッとゴールリングを通った。 「好きな子の前でカッコつけたいのも立派な原動力だからねー」  岡林先輩があははと笑って言う。 「カッコつけ……? あんな格好いいのに?」 「ははっ、そーだよねー。その通り! てか言っちゃうんだね、保科くん」 「あ……」  ぶわーっと頬が熱くなって、持っていたハンドタオルで顔を隠した。  暑いだけじゃない汗が、じんわりと身体中に滲んでくる。
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