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「土日の部活は一応16時までってことになってるよ」  って秋川先輩は言ってた。 「でも予定外のことがあるかもしれないし、終わったらメッセージ入れるね」  とも言ってたから、16時前頃からそわそわしながらスマホを見てる。  ……ていうか、起きてからずーっとそわそわしてて、スマホがピロンと鳴るたびに飛びついてチェックしていた。  もしかして早く終わったりしないかなー、とか思って。先生の急用とかで。  でも残念ながらそんなことはなくて、まだ秋川先輩からの「終わったよ」のメッセージはきていない。  もう出かけちゃおっかな。駅前のコンビニとかで時間潰せばいいし。  家にいても気が急いて何も手につかない。  そうしようって思って、トイレに行ったり出かける準備をしていたら、ピロン!ってスマホが鳴った。  画面に秋川先輩の名前と『新着メッセージがあります』の表示。  大慌てでスマホを操作して、慌てすぎてパスコードが上手く入らなくて弾かれた。  ーー部活終わったからこれから帰るよ  わ、わ、わ、  ーーー今学校ですか  ーーそう だからゆっくり出てきて  ーーーはい  って返事を送ったくせにバタバタしてる。    ゆっくり、とか無理……っ  だって早く会いたい  リビングのドアを開けて中を覗いたら、ソファに母が見えた。 「お母さん、ちょっと出かけてくるから」 「え? 今から? どこ行くの?」  びっくり顔の母が立ち上がる。 「ち、ちょっと駅まで……っ、行ってきますっ」  見送られるのは恥ずかしいから、早足で玄関に向かったけれど追いつかれてしまった。 「晩ご飯6時半だからそれまでに帰ってきてね。気を付けて行ってらっしゃい」  にこーっと笑って手を振ってる母のその笑顔に含みを感じた。  ……たぶんバレてる  はずかし……  ハンドタオルを握りしめて、強い西日を浴びながら駅に向かう。  暑い。もう夏だなぁ。  そういえば去年の今頃、まだ見学に行く高校も決められてなかった。  あの時内野が星ヶ丘を勧めてくれてなかったら、今頃どうしてたのかな。  なんとなく入った高校で、ぼんやり過ごしてたのかな。  今はもう、秋川先輩に出会わなかった人生なんて考えられない。  駅前の街路樹の下で立ち止まった。足下から湿気と熱気が上がってくる。待ってるのとは反対向きの電車が駅に入ってくる音が聞こえてきて、遠くに銀色の車体が見えてきた。  そういえば僕、内野にちゃんと話してないんだよなぁ、先輩のこと。  もちろん気付いてるんだろうけど、内野は何も言ってこない。  でもやっぱキチンと話さなきゃなあ、友達だし。  なにより、秋川先輩に会えたのは、内野のおかげだから。  じんわりと全身に汗をかきながら待っていたら、学校方面から電車が近付いてくる音が聞こえてきた。  これに乗ってるかな? それとも次?  街路樹の下を出て駅の階段に向かう。西日が当たって肌がジリジリする。見上げると、人々がダルそうに降りてきていた。  あ! 内野だっ  その後ろに秋川先輩っ  一緒に、っていう距離感じゃない。そもそも内野は秋川先輩をちょっと避けてるみたいだし。    2人が僕に気付いて、秋川先輩がふわっと笑った。  わーい!  そうだ、今言っちゃおう、内野に。学校よりいい気がする。    階段を降りてくる内野に視線を移したら目が合った。  あれ?  眉間に、皺……?  内野が足を速めた。 「あ、ねぇ内野っ」  そのまま行ってしまいそうな内野に駆け寄ると、内野は唇を歪めて立ち止まった。
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