Rin     137

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Rin     137

「日曜は、うちに猫見に来ることにしとこっか、一応。ね?」  秋川先輩のその提案に、僕はうんと頷いた。 『ネコと遊ぶおうちデート』ってことにする感じ、だよね 「内緒で、は無理だから。ごめんね」  苦笑いする先輩に「ううん」と首を振って応えた。  火曜日のお昼休み。今日も一緒に空き教室でお弁当を食べてる。 「しょうがないです、みんな見ちゃうのは……。だって……」  秋川先輩、格好いいから  見かけたら、つい目で追ってしまう。  誰にも見つからないで駅から家まで、なんて絶対無理。  そう思って秋川先輩を見たら、先輩は僕を見てクスッと笑った。 「そうなんだ。保科くんが可愛いからみんな見ちゃうんだよ。母が『あの子誰?ってみんなに訊かれたわ』って笑ってたよ」 「え?!」 「でね、『貴之の生徒会の後輩なの。可愛いでしょ?』って応えたらしいよ」 「え、え、え……っ」 「やっぱさ、俺も自覚ないってよく言われるけど、保科くんもだよね」  くすくす笑いながら、秋川先輩が長い指の背で僕の頬を撫でた。 「ほんと可愛い……」  目を細めて言う先輩が格好よすぎて唇を噛んだ。  次の日曜に秋川先輩の家に行くって約束して……丸一日。  ずっと、なんとなくふわふわドキドキしてて、時間の感覚とかちょっとおかしい。 『一週間がすっごく長くて、あっという間に日曜が来そう』  先輩のあの言葉が、ほんとぴったりだと思う。  教室に戻って、「もう」なのか「まだ」なのか分かんないなって思いながらカレンダーを見た。 「琳ちゃん、昨日からよくカレンダー見てるよね。何かあるの?」  ススッと寄ってきた眞美ちゃんにそう言われて、びくっとしてしまった。 「あー、秋川先輩とデートの約束でしょ」  人差し指をピンと立てた眞美ちゃんが、コソッと言ってニヤッと笑ったところで予鈴が鳴って、僕はちょっとホッとしながら席に着いた。  もう夏休みが目の前だから、授業が緩い感じで助かってる。  ちょっと気を抜くと、すぐに先輩のことばっかり考えちゃう。  まあそれは……、前からそうなんだけど……。でもちょっとだいぶ違う。  さっき僕を抱きしめてくれた先輩の、心地いい体温や腕の強さ。  頭を、肩を、背中を、そして頬を撫でた大きな手の感触。  優しく柔らかく触れた唇の立てた濡れた音……。  キュッと唇を噛んで、誰にも気付かれないように静かにゆっくりと深呼吸を繰り返した。    身体、熱くなってきちゃう  ここは学校で、しかも授業中なのに……  ……先輩は、どうなのかな  こんなの僕だけ?  教科書を見てるフリをして、薄いベージュのタイルの床を見た。  この下の階に、秋川先輩がいる。  放課後まで会えない。放課後になれば会える。  生徒会のお手伝いをして、バスケする格好いい秋川先輩を見るんだ。  そして、家まで送ってもらう。肩を抱かれて歩いて、ぴったりくっついて電車に乗って、「帰らないで」って思いながら広い背中を見送るんだけど、最近先輩が角を曲がる時、手を振ってくれるようになってすごく嬉しい。  一日中、秋川先輩と一緒にいたい。  今度の日曜日は、朝から夕方まで2人っきりになれる。  すごく楽しみで、ちょっとだけこわい。  だから日曜が、はやく、ゆっくり来てほしい
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