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 木曜日の放課後、生徒会のおつかいで秋川先輩と100円ショップに行くことになった。 「赤ボールペンとクリアファイルと保科くんのカップね。あと、帰りにアイス買ってきて。カップのバニラ」 「おれソーダ味の棒のやつ」 「カップのチョコミント!」 「あれあれ、飲む? 吸う? やつのバニラ」  3年生の先輩たちが次々に言うのを、秋川先輩はメモも取らずにはいはいと頷いて聞いてて、「了解です」とサイフとエコバッグを受け取った。 「行こっか、保科くん」 「あ、はい……っ」  覚えたんだ、やっぱすごいな。僕ならお店で忘れちゃう。  サッカー部が練習してるのを横目に見ながら、秋川先輩と並んで歩いてる。  ここで先輩は声をかけてくれて、僕はすっごいびっくりして……。 「あれ?」  あの時を思い出しながら秋川先輩を見上げたんだけど、 「ん? どうしたの? 保科くん」  なんか角度が違う気がする……てことは。 「秋川先輩、背伸びてますよね」 「え? まあ、うん、伸びてるだろうけど、そんな分かる?」 「うん、あの時と違う……」  僕がそう応えると、秋川先輩は嬉しそうに、すごく綺麗に笑った。 「そっか。保科くんの喋り方も、あの時と違うね」 「あ……」 「どっちもめちゃくちゃ可愛い」  スッと顔を寄せた先輩がコソッと言った。少し向こうを歩いていた女子生徒がチラッと振り返った。  僕は慌てて目を伏せて、汗を拭くふりをして持っていたハンドタオルで顔の下半分を隠した。 「あら、早かったわね。お帰りなさい」  生徒会室に戻ってきた秋川先輩と僕に、笹岡会長がニコッと笑って言った。 「アイスがありますからね。急いで帰ってきましたよ?」  やや眉を歪めた笑顔でそう応えた秋川先輩が、島に並べた机にエコバッグを静かに置いた。そして「はい、保科くん」と新聞紙に包んだカップを渡してくれて、赤ボールペンとクリアファイルをサイフと一緒に会長に渡していた。 「あははー、そうだよねー。外暑かったでしょ、ありがとねー」  渡部先輩が飲むアイスのパックを取って「いい感じー」って言いながら、両手でむにむにと揉んだ。 「休憩休けーい。あ、保科くんカップどんなのにしたの?」  チョコミントアイスを取りながら僕の手元を見て大沢先輩が言う。 「あ、えっとこれです」  僕は秋川先輩が包んでくれた水色のカップを新聞紙から出した。 「やん! 可愛い! にゃんこだ!」 「あははー、似合うー」  いっぱいあったネコ柄のカップの中で、この水色に白と黒の2匹のネコのシルエットのカップが、シンプルで一番いいなって思った。  秋川先輩ん家のミルクとココアみたいだし。 「後で洗おうねー。とりあえずアイス食べよー、ていうか藤堂くんいつの間にかもう食べてるし」 「棒アイスは溶けたらやばいだろ?」 「まあそうだけど」  わいわい言いながらアイスを食べた。秋川先輩は四角い容器のバニラアイス、僕は同じののいちごアイスにした。 「あー、アイスお揃いー」 「いいよねー、シャリシャリして」 「食べたらもうひと頑張りー」 「もう体育祭と文化祭の準備だもんなぁ」 「夏休み明けてからじゃ間に合わないもんね」 「体育祭、文化祭が終わったら選挙でー、私たちは引退! あとはよろしくね、秋川くん、保科くん」 「え……」  笹岡会長がにっこり笑ってて、ついまじまじと見つめてしまった。 「やだかわいー、保科くん。秋川くんはね、まぁ会長よね。保科くんは選挙出てもいいし、今のままお手伝いメンバーでもいいと思うわよ?」 「……会長、まだ俺が当選するとは限らないじゃないですか」 「その言い方だと選挙に出る気はあるんでしょ? 出たら当選するわよ。自分の人気と実力、もうちょっと自覚しなさいよ」  笹岡会長がちょっと呆れたような表情で秋川先輩を見てそう言うと、他の3年生もうんうんて頷いてた。  僕も、秋川先輩は生徒会長に当選すると思う。 「バスケ部の部長で生徒会長、なんてめっちゃ格好いいよねー、ね、保科くん」  渡部先輩に満面の笑みで言われて、思わず大きく頷いてしまった。 「ははっ、頑張んねーとな、秋川」  藤堂先輩が笑って言って、秋川先輩が軽いため息をついていた。
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