Takayuki   141

1/1
前へ
/147ページ
次へ

Takayuki   141

 あれ、無意識だったんだろうな。 『夏休みもバスケ見たいです』って言った時と、『練習試合も見たい』って言った時、保科くんは俺の腰をトントンてたたいてた。  あれ、めちゃくちゃ可愛かった。  シャツ握ったままだから、引っ張られる感じとかすごい「おねだり感」があって、ああ俺、保科くんの恋人なんだなぁって改めて思ったのと、こんな風に言ってもらえるぐらい、保科くんが俺に甘えてくれるようになったのがほんとに嬉しくて幸せだった。  最近タメ口も増えてきたしな 「がんばって」もすっごい可愛かった。  あんまり可愛かったから抱きしめてしまった。  岡林と将大が茶化してくれて、友達は有難いなって思った。  元々負けず嫌いだし、練習とはいえ試合と名の付くものは全部勝つ気で全力で挑むんだけど、今回はその上に保科くんの願いを叶えてあげたいっていう私情がどっかりと乗っている。この前の3年生の引退のかかった大会とはまた違う、負けられない緊張感を持って相手高に向かった。  結果は快勝。  試合後の反省会で、ついでに夏休みや練習試合にギャラリーを入れることについてどう思うかをみんなに訊いた。 「いいんじゃねーの? 休み、静かで淋しーし」 「試合はギャラリー入れてほしい!」 「女の子いたら頑張れます!」  みんなが口々に意見を言ってくれて、試合に勝って機嫌のいい顧問が笑顔で頷きながら、どちらの提案も前向きに検討する、特に夏休みの見学くらいなら在校生なんだしそんなに難しくないんじゃないか、と言って、練習試合の方も予定の入っている相手高と話してみるよと言ってくれた。 「サンキューな、貴之。理沙も喜ぶ」 「それを言うなら将大も試合めっちゃ頑張ってくれたじゃん。ありがとな」  久々に、将大と2人で帰ってる。。今日も真夏日を超えて猛暑日で、夕方近くなってきても足元のアスファルトが溶けそうなほどの暑さだ。 「明日も34度予報だよなぁ。てことは35か36までいくだろ? 理沙がさ、明日かき氷食いに行こうって言ってて。並んでる間に熱中症になるんじゃねぇかって心配で。おれは大丈夫だろうけどさ。そいえばお前らはどうすんの? 久々の休みだけど」 「え」   ドキッとして思わず固まってしまった。やばい。  将大がニヤッと笑った。 「デートの約束してんな? 保科くんとどこ行くんだー? 貴之」  がしっと肩を組まれて顔を覗き込まれる。 「いや、どこって……」  落ち着け、俺  いや落ち着いても無理かも  将大が相手じゃ……  ていうか肩組まれるのって暑いな。  こんな暑いのに、保科くんは俺の腕の中に入ってくれてるのか。  ぴたーってくっついてくるの、ほんと可愛いんだよな。 「な、どこ行くんだー? つか、もしかしておうちデートか?」 「あ、うん。猫見に来る」  ということになってる。うちでは。  これ以上は、さすがに話せない。将大が間近で俺の顔を見て、「ふーん」と言った。 「貴之ん家の白黒にゃんこズな、かわいーよな」  ふんふんと頷いた将大が、またチラリと俺を見る。 「ま、あっついし家もアリだよな。お前ら目立つし」  俺の肩をポンポンとたたいて、将大が腕を解いた。汗ばんだ肌をぬるい風が撫でていく。 「……あー、うん。それは最近思い知ってるよ」  ついため息が漏れた。 「はは、そっか……」  苦笑いを浮かべた将大が、今度は俺の背中をポンポンとたたいた。  ちょうど将大の家との分かれ道に来て「じゃあな」と手を振り合う。 「明日、2人っきりだったら尚良かったのにな」  ニヤッと笑って言った将大を、思わず凝視してしまった。  時間にすればほんの一瞬。  でも    やば……っ  腕時計を見るふりをして目を逸らす。  背後で将大が「ははっ」と笑った声が聞こえた。  ……バレた、な  首筋からぶわっと熱が広がって身体中を汗が流れる。 「頑張れよー、貴之っ」  後ろから声をかけられて少しだけ振り返った。  将大が満面の笑みで親指を立てていて、めちゃくちゃ恥ずかしかった。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

303人が本棚に入れています
本棚に追加