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R 16
「あれ? ねぇあそこ、秋川先輩いる」
「え? でも……」
ミニソフトボールを見に来てるグラウンドで、眞美ちゃんが校舎の方を指差した。
「ほんとだ。すぐなのにゲーム……」
「え?」
スタイルのいい長身。
秋川先輩に気付いた女の子たちが振り返ったり近寄って行ったりしてる。
格好いいなぁ……
「お! 打ったぞ」
その内野の声でハッとして、グラウンドの方に目を向けると、バッターの女の子が走り出してた。
「あ、彼女ね、お兄ちゃんが野球やってるって言ってた。小さい頃は一緒に近所の野球チームに入ってたんだって」
眞美ちゃんがパチパチと手を叩きながら言った。
「へー、だから」
って言いながらも、ほんとはもっかい秋川先輩を見たい。
打者が一塁に走り着いたからもういい? いいよね?
そう思ってさっき秋川先輩のいた方を見たけど、もう先輩はいなかった。
だよねー。バスケ出るもんね、秋川先輩。
むしろこのタイミングで見られたのがラッキーだ。
生徒会の役員は見回りとかしなきゃいけないのかな?
だとしたら、またどっかで見られちゃうかも?
「あー、なに琳ちゃん。かわいー笑い方して」
「え?」
眞美ちゃんが僕の頬を人差し指でぷにって押した。内野も僕を見た。
「まあ琳ちゃんはいっつも可愛いんだけどねー。あ、大縄引っかかった」
大縄跳びもグラウンドでやってる。今やってるのはうちのクラスじゃないけど。
「大縄って単純だけど、何気にキツいよなー」
内野が少し唇を歪めて言った。
「うん。だからドッジにした。僕体力ないし」
ってちょっとしたウソをつく。
「あたしもー」
眞美ちゃんがえへへって笑った。
「ねぇねぇ、内野くんってバスケも上手いの? サッカー部でしょ?」
眞美ちゃんの友達の女の子が内野を見上げながら訊いた。確か芽依ちゃん。
ほっぺピンクになってる。かわい。
「あ? あー……、まあまあ?」
内野が彼女を見下ろして、にこりともせずに応えた。
「じゃないよ? 内野バスケも上手いよ。ていうか体育全般上手いんだよ。運動神経いいから」
「んなの言わなくていいんだよ保科っ」
内野が僕の肩にぐいっと腕を回した。
「仲良いよねー、2人」
「そう、この2人はね、中学の時からこう」
眞美ちゃんが、あははって笑いながら言う。
まだあんまり喋ったことのないクラスメイトが、見事にホームランを打ってミニソフトは勝って「わー」ってハイタッチとかして、それから体育館に向かった。
体育館では、入口に近い方でバスケ、奥ではドッジボールが行われてて、左右の端に置いてあるホワイトボードにトーナメント表が貼ってあった。
あ! 2−1勝ってる!
見たかったー
「あー、秋川先輩んとこ勝ってるね! 見たかったなぁ」
眞美ちゃんが僕が思った通りのことを口にした。
言えるの、いいな。羨ましい。
秋川先輩は男子にも人気があるけど、僕の「好き」と彼らの「好き」は違うから、やっぱり言えない。
「1ー4のドッジの人集まってー」
「あ、はーい」
「頑張ってこいよー」って内野が声をかけてくれて、僕と眞美ちゃんは両手ガッツポーズで応えた。
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