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「あ、あの、眞美ちゃ……」 「琳ちゃんがリンゴちゃんになってる。かわいー」  ビクッとしたら、ふふって笑った眞美ちゃんが僕を覗き込んだ。 「お水で手冷やして顔冷やす? それとも顔洗っちゃう?」  タオルあるよ、って眞美ちゃんがナップサックを開けた。 「日焼け止めもほんとに持ってるよ、ほら。後で塗ってあげるね」  にこにこしながら日焼け止めを見せてくれた眞美ちゃんに、うん、て応えて水栓を開いた。どうしようかと思ったけど、手を冷やすことにした。顔洗って前髪とか濡れてたら怪しい気がする。  タオルは僕も持ってるからナップサックから出して手を拭いて、冷えた手のひらで頬を包んだ。顔の熱が手のひらにスッと溶けていく。  眞美ちゃんがまた僕の顔を覗き込んできてドキッとした。 「うんうん。まあオッケーでしょ。あんま遅いとアヤしいからね」  はい手ぇ退()けてーって言いながら、眞美ちゃんが僕の頬に日焼け止めをぺたぺたと塗ってくれる。  でも眞美ちゃんは何も言わない。 「はい、行くよ、琳ちゃん」  僕の手首を掴んで、眞美ちゃんが昇降口に向かって歩き始めた。僕は少し俯いて付いて行く。スニーカーを履いて外に出たら眞美ちゃんが「眩しいね」って言って、僕はうんて頷いて、大縄跳びをやってるグラウンドの真ん中を目指した。  ちなみにグラウンドの両端ではミニソフトボールが行われている。跳んでる時ボール飛んできたりしてないのかな。 「保科、山田! 大縄まだこれからだって」  内野が僕たちの方に歩いて来ながら教えてくれた。 「1コ前のグループの1位がなかなか決まんなくてズレこんでんだってさ」 「4チームで3分間跳んで1番回数多いとこの勝ち抜け、だっけ?」 「そ、で1−5と2−3がおんなじ回数で一騎討ちになって、4回目でやっと1−5が勝って決着」 「うわ、3分を4回?5回か。やだぁ」  眞美ちゃんが両手を頬に当てて言う。僕もやだ。 「つーかさ、お前ら来んの遅くね? 保科のちっさい顔に日焼け止め塗るの、そんな時間かかんねーだろ」  内野がむすっとした顔で言った。 「あ、うん。あたしのトイレ待っててもらったの。やだ、そんな怖い顔しないでよ、内野くん」  眞美ちゃんが内野の腕をパンッて軽く叩いて、しれっと言った。  ウソついてくれた……、眞美ちゃん。 「ふーん」  内野は納得したような、してないような顔でもう一回僕を見た。  僕は「そうだよ」みたいな顔をした、つもり。 「……保科ってさ……」  内野がボソッと言って僕をちらっと見下ろした。 「え?」  そして、ふっと目を逸らす。 「……なんでもない」  そして内野は、大縄跳びをやっているクラスメイトの方を向いた。 「3分って何気に長いよなー」 「……うん」  さっき、何て言いかけたのかな、内野。  大縄跳びは3−1としばらく争ってたけど、端っこの男子が足を引っ掛けちゃって負けてしまった。 「ごめん、みんなっ」 「いいって、いいって。長くなったら端はキツいよなー」  って青春映画みたいな場面が繰り広げられてて、「お前のせいで」とかない平和なクラスでよかったって思った。  
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