Takayuki   20

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Takayuki   20

 声を、かけてしまった……。保科くんに。  やばい。息できてない。心臓が喉に詰まってる。  昇降口から体育館に向かう廊下、階段ホールの柱の陰に入って背中を預けた。  ドキドキ ドキドキ ドキドキ 「貴之」 「うわっっ!」  ひょいっと将大が現れて、心臓が止まりそうなほど驚いた。 「なにお前、驚きすぎだろ。化けモンじゃねーぞ?」  将大も驚いた半笑いの表情で俺を見た。胸はさっきまでと違う感じでドクドクいってる。 「真剣にトーナメントのプリント見てんなーと思ったらフラフラ出て行くし、お前今日どうしたんだよ」 「え、いや、ほら、生徒会は見回りしないといけなくて、空き時間に」  それは嘘じゃない。上級生下級生のトラブルなんかが起こってないか、もしくは起こらないようにするために、役員は学校内をパトロールするように言われている。 「ふーん。でもそれなら何でプリント? 自分のクラスのどの競技が何時かなんか、一回見たら覚えてるだろ、貴之は」 「いやいや覚えてないし。それは俺を買い被りすぎ」  本当は4競技分の開始時刻ぐらい覚えてる。プリントを見てた理由はそれじゃない。  ……保科くんの動きを、考えてた。  そもそも保科くんがどれに出るのか分からない。  だからとりあえず、1−4のゲームに行けるだけ行こうと思って、まずミニソフトをやるグラウンドに行った。でも保科くんを見つけられないまま、自分のバスケのゲームの時間になってしまって体育館に向かった。  自分のゲームが終わって少ししたら1−4のドッジボールが始まるのは分かってたけど、うちのクラスのミニソフトを見に行かないといけなかった。1−4がミニソフトをやってたのはBコートで、2−1はAコートだったからか擦れ違うこともなかった。ミニソフトを見ながら、大縄のメンバーに保科くんがいないか探したけど見つからなかった。    1−4のバスケは時間的に間に合わないかもしれないと思ったけど、とりあえず向かってみた。バスケに出てたとして、ゲームが終わったら少し時間が被ってる大縄を見に行くんじゃないか、そしたら昇降口辺りで会えるかもしれないと思った。 「……貴之さー……。好きな子、できただろ」 「えっっ」  将大が俺を見てニヤリと笑う。 「クラスは分かってる。でもどの競技に出るかわかんねぇ。だからその子のクラスのゲームを追っかけてる。違うか?」 「う……」  図星すぎて誤魔化す言葉も出てこない。 「ははっ。そっかそっか。ようやく貴之にも春が来たか」  将大がデカいゴツい手で俺の肩をバンバン叩きながら「良かった良かった」とか言ってる。 「あれだろ? 神様案件。お前が願って叶わないかも、なんてのは相手のいる話だけだろうとは思ってたけど」  俺を覗き込みながら、将大がニッと笑った。 「貴之が言いたくないなら無理にとは言わねぇけどさ、おれにできることがあれば全力で協力すっから、な?」 「……ん。分かった……。サンキュ」  頬が熱くなってるのを感じながら、ボソボソと応えた。 「……可愛い系? それとも綺麗系?」  訊いてくる将大の声が笑ってる。 「……可愛い系……」  さっきも大きな目を丸くして俺を見上げてきて、めちゃくちゃ可愛かった。保科くんを見てると、うちの猫がうちに来たばっかりの仔猫の頃を思い出す。  ……でも、今更な疑問がふと湧いてきた。 「ていうかさ、可愛いから好き、で合ってる?」 「は?」  こんなこと友人に訊くのは恥ずかし過ぎる。しかも高2にもなって。  でも経験値がなさすぎて分からない。 「俺さ、その子の見た目と名前ぐらいしか知らなくて。ほとんど喋ったこともないし。だから正直、性格とかはよく分かってなくて……」  こんなんで、人を好きになったって言えるんだろうか。 「あ、なんだ。一目惚れか?貴之。いいじゃんいいじゃん、全然アリだよ。まずは顔が好き、で目で追ってるうちに段々どんな子か分かって、みたいな? フツーフツー、そういうもん、レンアイは。まあ元々友達で性格に惚れて、っていうパターンもあるけどな」  カラッとした笑顔で、うんうんと頷きながら将大が言った。 「ちなみにおれはー、1年で理沙とおんなじクラスになった時すぐに、かわいーなーって思ってたんだー」  へへって照れくさそうに笑いながら将大が言う。 「え、2学期に隣の席になったのがきっかけじゃなくて?」  そこから仲良くなって付き合ったんだと思ってた。 「じゃなくて。顔かわいーな、からスタート。貴之とおんなじ」 「そ……か……」  いいのか  廊下がザワザワしてきて、将大と目を見合わせて口をつぐんだ。 「とりあえず体育館行くか。この後ドッジあったよな」  将大がスマホで時刻を確認しながら言う。 「ああ」 「やっぱ覚えてんじゃん、貴之」 「あ……」  将大が、ははって笑いながら俺の背中をポンとたたいた。
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