T      22

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 教室で弁当を取って、倉庫代わりになっている空き教室に入った。  昔より生徒数が減ってるから、各学年に空きが二部屋ずつある。  出入口を開けたらすぐパーテーションが並んでて、中が見え辛くなっていた。  将大が出入口の戸の室内側にくっついてる青色の丸いマグネットを廊下側に移した。先輩から受け継いだ『使用中』の合図だ。中から鍵は掛けられるけど、目印があれば遠目でも使用状況が分かって便利なのだ。休み時間は短い。  カチリと鍵を掛けてから窓を開け、将大と向き合って座った。 「で、どんな作戦立てんの? 貴之」  将大がニヤッと笑って俺を見る。 「いや、作戦ってのは方便でさ。あの……、気持ちの切り替え方、教えてほしくて……」 「ん? ああ、さっきから変だもんな、お前。何見た?体育館出た時に。タイミング的にそこだろ?」 「う……、将大お前、超能力者なのか?」 「だったらもっと別なことに力使うっつーの。あの時見たのはー、学食に向かってく1年の団体だったな。松岡んとこの後輩いたし」 「え?」 「ああ。たまにさ、お前が部活来る前に外走ることもあるんだよ。その時見かけんの、サッカー部もストレッチとかやってるし。今年のサッカー部の1年で1番のイケメンくんなんじゃねーの? 松岡が可愛がってる」 「へー、知らなかった。そういえば2年になってからあんまり松岡にも会ってないな」 「あいつ7組だからなー。遠いもんな、教室。で、じゃなくてさ、貴之の好きな子はあの時の1年生の中にいたってことでいいんだな?」 「え……あ……うん……」  将大の鋭い視線がスッと刺さってくる。 「そんなしっかり見てはなかったけど、その松岡の後輩くんの近くにいた、腕組んでる2人は可愛かったなー、セミロングとショートの」 「うっ」  唐揚げが喉に詰まりそうになった。 「どうした? 貴之」  そうか。ジャージだったから、将大には保科くんが女の子に見えたのか。可愛いからな、保科くん。しかも遠かったし。 「さてはあの2人のうちのどっちかだな? 可愛い系っつってたもんな。どっちだ? どっちもかなり可愛かったぞ? 知ってるだろうが、おれの視力は両目とも2.0だ」 「……もはや絶滅危惧種だな」  羨ましい 「うちの一族はみんな目がいいんだよ。遺伝だな。で、どっち?」 「……ショート……、なんだけどさ……」 「おー、ショート! 可愛かった! まさに美少女って感じだったよな」  言うか? 言うのか? 大丈夫か? 将大、引くかな?  将大は器の小さい男じゃない。たいていのことは笑って受け止めてくれる。でもどうなんだ、これは……。 「貴之?」  でもここまできたら……、言わないと前に進めない。  ぐっと拳を握りしめた。 「……あの……さ、あの子、あのショートヘアの子……。男子……なんだ……」 「え?」  もう将大の顔は見られなくて俯いた。ドクドクと息苦しいほど心臓が早鐘を打っているのに、膝の上で握りしめた拳が冷たくなってくる。  どう思った? どう思われた? 引いた? 「あーー……、そう、そっちね。うんうん、おっけ、分かった」  将大の声は明るい、気がする。自分の心臓の音が頭にまで響いててよく分からない。  恐る恐る視線を上げる。 「なにビビった顔してんだよ、貴之。それ聞いておれが引くと思ったか? 何年お前とダチやってると思ってんだよ。んなことで引いたりしねぇよ」  カラリとした笑顔でそう言った将大が、普通の顔をして玉子焼きをぱくりと食べた。 「で? あの時のあの場面で、なんでそんな動揺してんだ? 貴之は」 「いやだって動揺するだろ。腕、腕組んで、あの2人……っ」 「あれ、友達だろ? 限りなく同性の友達に近い感じしたぞ、あの子たち」 「え?」  同性の友達……? 「まあ、おれが2人とも女子だと思って見てたってのもあるかもしんねーけどさ」  将大が弁当の最後の一口をかきこんで、箸をパチンと仕舞った。 「つーかさ、「ほとんど喋ったことない」ってことは、ちょっとは喋ったってことだよな、あの子と。その時どんな反応だったんだ? あの子」 「え、あ……、なんか俺のこと見上げてきてすごい可愛かった……」  ポロッと言ってしまってから、ぶわっと体温が上がってきた。  恥ず……っっ
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