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T 23
「ははっ、可愛かったんだ。いや、可愛いだろうな、あれが見上げてきたら。それじゃ『先輩に声かけられてやだな』みたいではなかったってことか」
「……と、思ってた……けど……」
自信は全然ない。
「とりあえず食えよ、貴之。1時にゲームだし。でもそっか、それで『気持ちの切り替え』ね」
将大はスマホで時刻を確認して、うんうんと頷いた。
「もうそれはさ、慣れるしかねーんだよなぁ。相手とおんなじクラスじゃなかったら、どこで会うか分かんねーし、おんなじクラスだったらだったで突然話しかけられたり、うっかり相手の好きなやつの名前聞こえちまってその場で失恋したりもすっからさ。ゲリラ戦みたいなもんだから、恋愛は」
「ゲリラ戦ってお前……」
もう味なんかよく分からない弁当を、「母さんごめん」と心の中で謝りながら口に運ぶ。
「どこで撃たれるか分かんねーからな。痛くて死にそーになるやつとか」
将大がチラリと俺を見る。
「アタマもカラダも溶けそうなのとか」
ニヤッと意味深に将大が笑った。
「どっちも、撃ってる本人は無自覚だったりするから余計タチ悪かったりするんだよなー。痛いのはもちろん、甘いやつもな」
甘い爆弾……は……
「……喰らったよ、もう。初めて会った時、心臓が壊れるかと思った……」
仔猫みたいな丸い大きな目。
「ヒトメボレだもんな」
「ん……」
将大がなんか優しげな目で見てきて居心地が悪い。でも。
「……ちょっと落ち着いた……、っていうか、ゲリラ戦って言われたら、もう闘うしかないんだなーって。めちゃくちゃ勝率低くても」
「まぁでも勝つ気でいかねーとな。最初っから負けっかもって思ってたらマジで負ける。どんな勝負でも」
強い目をした将大が、俺をまっすぐに見つめてきた。
「理沙、あいつさ、元々は貴之のこと『いいな』って思ってたんだぜ? でもおれ諦めらんなくてさ、『隣の席になったのは運命だ』くらいに気合い入れて毎日頑張って喋ってさ。そしたら段々おれの方向いてくれるようになって……。まあ、貴之の方がハードル高ぇし、おんなじように頑張れとは言えねぇけど、おれも協力すっからさ」
な?って微笑まれて、じんとしてしまった。
「……ん。サンキュ、将大。聞いてくれてありがとな。つか俺、岡林の時全然協力できなくてごめんな?」
「いや、協力してくれてたよ、お前。『俺は岡林に全然興味ありません』っていうさ、『単なるクラスメイトです』っていうオーラ撒き散らしてくれてたから、すげぇ助かったよ」
「え……」
そんなつもりは……
「はは、また『分かんねー』って顔してっし。いいからいいから。ほら、そろそろ体育館行くぞ。作戦会議終了」
どうにか食べ終えた弁当を仕舞って立ち上がった。将大が素早く窓を閉めて、出入口に向かう。
パチンと鍵を開けて廊下に出ると、窓の外のグラウンドではミニソフトのゲームが行われていた。
「ソフトは昼も続けてやってんだっけ?」
将大がグラウンドを見渡しながら言った。
「そう。でないと終わんないから。昼休みは各自取ってくださいってことで」
1−4は、今2回戦をやってるはずだから、グラウンドに行けば保科くんを見られたかもしれない。……まあ、そんな時間なかったけど。
「つーかさ、バスケにバスケ部が出る場合、ドリブルは禁止って誰が決めたんだよ。絶妙にやりづらいっつーかイライラすんだけど」
将大が眉間に皺を寄せている。
「さあ? ホームマッチの実行委員の誰かだろうけど、生徒会に実施要項がきた時にはもうそう決まってたし。でも確かにな、もどかしいよな」
「いっそ部員は出られないって方がスッキリすんのにな」
「出てもいいってなるとさ、勝ちたいから出されるんだよなー、部員は」
なー、って言いながら体育館に入った。
バスケとドッジボールは13時から午後の部がスタートする。
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