T      24

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「おー、秋川、橘。頼んだぞー、次も」  先に来ていたクラスメイトが笑いながら言った。 「いやいや、おれらパスしかできねーし」 「んなこと言いながら2人ともばんばんゴール決めてたじゃん」 「そりゃあまあ、いい所でパスがきたら打つけど」 「そう、そのいい感じのパスで点取って、な?」  あははって笑いながら言うクラスメイトに笑顔を返しながら「そのいい感じのパス」が難しいんだよ、と思う。  バスケは本当は1チーム5人だけど、ホームマッチでは8人制になってる。普段より6人も多くコートの中を走ってる上に、思いもしない動きをするからやりづらいことこの上ない。 「あ、バスケ部員は見えやすい所にこのテープ貼ってー」 「おっけー」  将大が受け取った赤いマスキングテープをテキトーな長さで切って、俺の肩から背中の辺りにぺたーっと貼った。一応、前後どっちからでも見えるんじゃないか、という張り方。俺も将大に同じように貼ってやる。  午前中はビブスを着てたから、袖にぐるっと貼った。そのまま貼りっぱなしでもよかったけど、ゴワゴワして邪魔くさかったから剥がしてしまった。  今回はうちのチームはビブスなしだから、これでいいだろう。  13時まであと5分、ということで、体育館の中はバスケとドッジボールのゲームに出る者、そしてそれを見る者でいっぱいになってきている。 「秋川くーん! 頑張ってー!」 「おー、いいねいいね、秋川ー。うらやましーぞー」  バスケに出るクラスメイトが、俺の腕を小突いていく。 「んなこと言われてもなあ?」  将大が苦笑いして俺を見た。  ピーッとホイッスルの音が体育館内に響いた。 「はい、では13時になりましたので午後の試合を始めます」  整列をしてゲームが始まる。ジャンプボールはバスケ部員以外、ということになっている。  本当に、いっそ部員は出られない、としてくれた方がスッキリするのに。  相手チームのぬるいパスを遮って、奪ったボールをまたすぐパスした。自分で前に進めないのが歯痒い。  ゴール下を目指して走っていると、体育館の入口が目に入った。  誰か、小柄な人物が走り込んでくる。  えっ?! 保科くん?!  ドキンと大きく胸が跳ねた。 「貴之!」  将大の声。飛んでくるボール。  集中しろ! 俺!!  3ポイントラインより僅かに外でボールを受け取った。 『バスケ部員が本気出しちゃダメでしょ、ホームマッチで』  そんなの知ったことじゃない  公式の試合より本気だったかもしれない。  高く跳んで、ゴールに向けてシュートを(はな)った。  足が床に着いた2秒後、シュパッとボールがゴールリングを通った。  うわっっ!!っと周りが湧き立つ。 「秋川ーー!! マジんなんなよー!!」 「キャーッ!! カッコいーー!!」 「やっぱすげぇな、秋川っ」  チームメイトが肩や背中をバンバン叩く。相手チームの先輩たちが半分本気で怒ってる。でも。  入口の方に目を向けた。女子の人垣の隙間。  やっぱりいる! 保科くん!  見間違いじゃなかった。それに……  俺を見てる?  あ、目逸らされた。  ゲームは続いてる。さっきまでよりガードが固くなった。  周りをウロウロされて走りにくい。でももう1本打ちたい。  保科くんが来てる。
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