T      25

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 なんで走って来たんだろう。  1−4のドッジボールのゲームがあるんだっけ? いや違う。1−4のドッジボールは1回戦で敗退してる。  じゃあなんで? バスケのゲームは次の次だったはずだ。走ってくる必要なんかない。    ピーッとホイッスルが鳴って前半が終了した。  1点差でうちのクラスが勝ってる。  ポンッと肩に手を置かれてビクッとした。 「貴之、あの子来てんじゃん」  将大が耳元でボソッと言って、ニヤッと笑いかけてきた。 「ぜってぇ勝たねぇとな?」 「……ああ」  保科くんはまだそこに立ってる。ちょっと俯いてて、立ってるだけなのに物凄く可愛い。  2分のインターバルをおいて、後半開始のホイッスルが鳴った。  保科くんが、最後まで見ていくのかは分からない。でも見ていると思って気を引き締めてプレイする。  将大の言った通り、確かにゲリラ戦だ。思いもよらない攻撃を受けて胸が苦しい。息が切れるほどは走っていないはずなのに呼吸が浅い。  コートの中を走りながら、時々保科くんの立っていた体育館の入口辺りに視線を向けた。  いる。  ちょこんと立ってる。  ジャージの腹んとこ握ってんの可愛い。  顔が笑いそうになるから唇を噛み締めて、邪魔する先輩たちを()(くぐ)ってパスをもらってシュートを打った。 「よっしゃ! 秋川3本目!!」 「っざけんなよ秋川っ!」 「おれもいきまーっす」 「てめっ、橘ーーーっっ!!」  将大も3ポイントを決めてバスケ部の鈴木(すずき)先輩に睨まれてる。 「あははー! ダメじゃん、そーたくんっ!!」  岡林の声が聞こえた。 「ちっくしょー、てめぇらデカいのをいいことにっっ」  鈴木先輩が下から睨んでくる。  鈴木先輩は165センチの小柄な体格を武器に、床スレスレの低いドリブルで相手に切り込んでいく。あのドリブルはなかなか止められない。  でも今はそのドリブルが使えない。申し訳ないけど、高い位置のパスでゲームを進めさせてもらう。 「貴之っ! 最後!!」  部活の時と同じ、強いパスを将大から受け取って、身体に染み付いたリズムでシュートを打った。  シュパッという小気味のいい音と共にピピーッとホイッスルが鳴って、3分のゲームが終了した。 「お前ら放課後覚えとけよ」  半笑い、半分本気みたいな顔で言った鈴木先輩が、俺と将大の背中をバンバン叩いていった。  保科くんは……っ 「貴之! 勝ったなっ」  太い腕ががしっと肩に回された。そのまま将大が俺の向きを変える。 「あの子あそこ。オトモダチ登場だ」  まだ少し荒れた息遣いで、将大が俺の耳元でボソッと言った。  保科くんはさっきまでいた所から少し移動してて、あのサラサラヘアの女の子に話しかけられてる。  そしてもう1人、背の高い男子が保科くんの隣にぴったり寄り添うように立っていた。  ああ、あれは入学式の時の彼だ。保科くんと一緒にいて俺を睨んできたあの彼が、松岡が可愛がってる1年生だったのか。  そしてその彼がまた、俺をジロリと睨んだ。  あの入学式の受付の時のように……。  ああ、そうか。分かった。  彼は……  
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