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R 27
後ろから眞美ちゃんの声がしてビクッとした。
恐る恐る振り返ると、にこにこした眞美ちゃんとムスッとした顔の内野が立っていた。
「ね、内野くん。琳ちゃん体育館にいたでしょ? 次バスケあるし先に行ってるだろうなって思ったの! あたしすごーい!」
眞美ちゃんがはしゃいだ感じで言った。
そっか、うちのバスケのゲームもあるんだっけ。そんなの忘れてた。
秋川先輩のことしか、考えてなかった。
でも、さも眞美ちゃんが言った通りみたいに、うんて頷いてみせた。
「ふーん?」
内野は「本当に?」みたいな顔で僕を見て、そしてコートの方に顔を向けた。僕はわざとコートから視線を外した。
ほんとはもっと秋川先輩のこと見たいのに。
「なんかすげぇ盛り上がってたよな。結構遠くから声聞こえてたし」
内野はなぜか不満気な声でそう言った。
「そりゃそうでしょ、2−1よ? 秋川先輩出てるのよ? 橘先輩も。あたしもちょっと見たかったなぁ」
眞美ちゃんが僕の手を取って、ぶらぶら揺らしながら言う。そしてちらっと僕を見た。ドキッとする。
あ
眞美ちゃんの向こう側を、秋川先輩たちが歩いていった。
ほんの少し振り返ったように見えた、けど……。気のせいかな。
色んな音とか声とかしてて人もいっぱいいるから、ちょっとそっち見たりはするよね。
「おー、1−4のバスケー、集まってー」
「あ、オレ行くわ」
「あたしたちは隅っこ行こっか」
眞美ちゃんがそう言って、いつの間にか来てた芽依ちゃんと一緒に体育館の隅に行くと、他のクラスメイトの女の子たちもいた。
「残ってるのバスケだけだね」
「あれ? 次の相手は?」
「1−6。女バスが3人いる」
「えー、やばいね」
「でもさ、1−6に勝ってその次も勝ったら、次2−1と対戦だよ?」
えっ
「そしたらさ、堂々と見れるよ、秋川先輩。そろそろ入れなくなってきてるじゃない?体育館。さっきもいっぱいだったし」
うん、いっぱいいた。女の子。
「なら頑張ってもらわなきゃ!ね!」
「うん!」ってみんなが力強く頷いてて、僕もこっそり拳を握った。
その、みんなの応援が良かったのかどうかは分かんないけど、1−4のバスケチームは2回戦を突破した。
やった! 秋川先輩に近付いた!
「内野くんすごーい! 2回もゴール決めたね!」
「相手の女バス、すっげ上手かったな、やばかったー」
「お疲れ内野。大活躍だね」
ちょっと浮かれてるのがバレないように、努めて普段通りに内野に話しかけた。
「んー、サンキュ。なんかさ、1回戦の時よりバスケ部員の手加減がなくなった気ぃしたんだけど……」
内野が、ふぅっと息を吐いて言う。
「そりゃ1回戦でどんなチームか分かってるだろうし、内野くんとか結構上手いってのも分かったからじゃない?」
「そーだよ。さっき活躍しちゃったもん、内野くん」
気付いたら周りが女の子だらけになってた。今まで喋ったことのない子たちも内野に話しかけてる。でも。
「一旦出ようぜ、ここ暑い」
内野は特に女の子たちと話すでもなく、出入口の方に向かって歩き始めた。
「こういうとこ全然変わんないよね、内野くん」
眞美ちゃんがコソッと耳打ちしてきた。僕は眞美ちゃんを見て、うんと頷く。
廊下は、時間を持て余している生徒の固まりがあちこちに出来ていてザワザワしていた。
「てゆっか次勝ったら2−1とだねー! 自分ちのチームがゲームだったら入れるよね、体育館」
眞美ちゃんが芽依ちゃんにワクワクした顔で言ってる。
「おい、どっちの応援しようとしてんだよ」
内野が眉を歪めて振り返った。
ごめん、2−1
って心の中で思いながら、内野から目を逸らした。
「つーかさ、3回戦も2−1が勝って、で、うちも勝ったら対戦だから。2−1が必ず勝つとは限んねーじゃん」
「勝つよ!」
「え?」
「あ……」
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