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「琳ちゃんありがとう! プリント飛ばしてくれて!」 「わっ」  体験入学が終わって星ヶ丘高を出て少しした時、後ろから来た眞美ちゃんにぎゅうっと抱きしめられた。 「なになにっ?!」 「琳ちゃんのおかげで秋川(あきかわ)先輩近くで見られたっっ。てゆーか琳ちゃん、先輩になんて言われてたの?」 「え?」 「ほら、耳元で何か言われてたじゃない。プリント拾ってくれた時」  眞美ちゃんが両腕で僕を抱きしめたまま訊いてくる。正直ちょっと歩きにくい。 「……あの人、アキカワ先輩……っていうの?」 『退屈?』って訊いた声が(よみがえ)ってくる。 「あ、そっか。琳ちゃん知らないのか。女子の間では有名なんだけど。あとバスケ部と」  ようやく僕から腕を離した眞美ちゃんが、今度は腕を組みながら言う。 「秋川先輩はねー、私たちの1コ上で第二中のバスケ部の部長やってたんだよ、保科くん」  僕たちの前を歩いてる伊藤(いとう)さんが振り返って教えてくれた。 「へー……」 ってことは今高1。 「秋川先輩がいた頃は、試合会場が女の子でいっぱいでね。敵チームの学校の子まで秋川先輩の応援しちゃうから『第二中とは当たりたくない!!』ってうちのバスケ部の男子も言ってたんだよね」  ねーって女の子たちが笑う。 「全然知らなかったぁ。サッカー部しか見に行ったことないし」  行ったけど、相手校のことなんか覚えてないんだけど。 「内野くんサッカー部だったもんね」 「内野くんも人気あったよね」 「おーいお前ら、歩くの遅すぎ。電車遅れっぞー」 「あ、ウワサをすれば内野くん」  前を歩いていた内野が戻ってきて、眞美ちゃんの反対側から僕の肩に腕を回した。 「保科、どうだった?星ヶ丘。オレはいいなーって思ったけど」  内野が僕を覗き込むように訊いてくる。 「あ……うん。いい、と思った…よ?」  どこが、とは言えない。 「そっかそっか、よかった。じゃ、高校も一緒だな、保科」  やけに嬉しそうにそう言った内野が、僕の肩をぎゅっと引き寄せた。  年末に向けて、どんどん時間の進み方が早くなっていって、あっという間に年が明けて、模試を受けたり、面接の練習をしたり、なんかずっとドキドキしていた。  僕は体験入学の時のあのプリントを、お守りとしてずっと生徒手帳に挟んで持っていた。  そして3月、バクバクと心臓が爆発しそうになりながら合格発表を見た。 「……った、やった!受かったぁー!!」  嬉しくて涙が出るってほんとだったんだ……っ  母も「よかったね」って言って一緒に泣いていた。 「わーっ、琳ちゃんも内野くんも制服似合うねー!」 「ありがと。眞美ちゃんも似合ってるよ」  4月、入学式。  もう何日も前からずっとそわそわしてしてる。  体験入学にいたんだから、入学式にもいるかもしれない。生徒会の人たち。  そう思うと気が急いて、早く学校に行きたくて、内野と眞美ちゃんに「混むのやだから早めに行こうよ」って言ってしまった。2人ともフツーに「いいよ」って言ってくれた。 「結局山田ともまた3年間一緒かー」 「なに? 内野くん、何か文句あるの?」  僕を間に挟んで内野と眞美ちゃんが言い合ってて、でも僕はそれを聞き流しながら、目だけで周りをキョロキョロ見回していた。  あ! いた!!  遠目でも、半年ぶりでもすぐ分かった。  胸がギュンとなって息が止まっちゃう。    入口の前に置かれた長机の所で、来た人に何かプリントを渡したりしてる。  秋川(あきかわ)貴之(たかゆき)先輩。  体験入学の後、女の子たちがフルネームを教えてくれた。  長机にいるのは4人。秋川先輩は右から2番目に立ってる。  やっぱりすっごい格好いいっ  秋川先輩からプリント貰いたい……っ 「はい、次の人ー。名前を教えてください」  右端の先生がそう言って、内野がその前に進んだ。机の上に名簿みたいなのがあってチェック入れてる。内野の隣に立っている僕の方に、秋川先輩の視線が動いてくる。  ドキン ドキン ドキン ドキン  覚えて……ないよね、僕のことなんか……  合格発表を見た時よりも強く胸が鳴って、心臓が口から出てきちゃうんじゃないかと思った。 「あ、君、受かったんだね、おめでとう。お名前は?」 「……っ」  
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