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R 30
内野は低めのドリブルで敵をかわしながら攻め込んでる。
「ははっ内野、バスケ部員より上手いんじゃね?」
「ねー、すごいよね」
って周りのクラスメイトたちが感心したように言ってる。
でもさっきも思ったけど、2−1のゲームを見た僕にはちょっとスローテンポに見えた。
秋川先輩たちは、ドリブルできない代わりに速いパスでゲームを支配してた。
内野がシュートを打ったけど、今回は入らなかった。芽依ちゃんが「あー……」って残念そうな声を上げた。
秋川先輩の投げたボールは、吸い込まれるみたいにゴールリングを通っていってた。ジャンプが高くて、フォームがすごく綺麗だった。
ピピーッてホイッスルが鳴ってビクッとした。
秋川先輩を思い出してるうちに前半のゲームが終わってた。6−6の同点。
チームのみんなと自陣ゴール下にいる内野が僕たちの方を見た。芽依ちゃんと眞美ちゃんが手を振ったから、僕も「頑張って」の気持ちを込めて手を振った。内野は、うんと頷いた。
後半のゲームが始まって、ボールの行方を目で追った。うちの方がやや優勢に見える。
勝ってもらわなきゃ困る。もう一回秋川先輩を見たい。
対戦することになったら見られるか、っていうと微妙なとこだけど、ちょっとぐらい確率は上がる気がする。
「内野ーー!」
「1−4頑張ってーー!」
前半からちゃんと応援すればよかったっ
なんて思いながら拳を握りしめてコートを見つめた。
内野と、うちのクラス唯一のバスケ部員の斉藤が中心になってチームを引っ張ってる。相手チームのバスケ部員は2人。
「あーーーっ、やった入ったっっ!」
「すごいすごい!4点差になったっ!」
「あと30秒!」
斉藤からのパスを受け取った内野がドリブルで走って、ゴール下で斉藤に戻して斉藤がゴールを決めた。
ピピーッとホイッスルが鳴った。
「16対10で1−4の勝ちです!」
「やったー!」って眞美ちゃんと芽依ちゃんとハイタッチをした。
見れる!かもしれない!秋川先輩!
見たい……っ!
「勝ったぞ、保科」
「わっ」
いきなり肩に腕を回されてびっくりした。
「ほら、一旦出るぞ、外。次始まるし」
さっきまで走り回ってた内野はまだ身体が熱くて、肩を組まれると体温が上がってくる感じがする。
しかも、芽依ちゃんを始めとして周りを女の子たちに囲まれてしまってるから、余計に暑く感じた。
もう閉まってる学食の前で内野が足を止めて、だから女の子たちも止まって、他の男子も止まった。なんとなくみんなが内野に従ってる感じになってる。
「こっからは総当たり?」
「だね。2−1とうちと、あとは今対戦してるCグループの勝った方の3チームで」
「うわー、緊張すんなー」
「てかお前は出ねーだろ」
ガハハと笑ってるクラスメイトが視界に入っているけれど、頭の中では相変わらずバスケをしてた秋川先輩の姿が再生されていた。
「はーい、次ー。バスケ優勝決定戦、2−1と1−4のゲームになりまーす」
体育館の方から声がした。
「うわ、体育館前すごいね。女子ばっかいっぱい」
「これ入れないんじゃない?」
眞美ちゃんが僕の腕を掴んで背伸びして体育館の方を見て言った。
……やっぱ無理なのかな……
「えーっと、応援は2−1、1−4の生徒優先です。嘘つかないで入ってくださーい」
やった!
「やったね、琳ちゃん! 入れるー!」
眞美ちゃんが僕の腕を掴んだままピョンピョン飛び跳ねた。芽依ちゃんも嬉しそうに内野を見上げた。
「うん!」
やったやった! 秋川先輩が見られる!
「しっかり応援してくれよな? 保科」
眞美ちゃんの反対側から、内野にガシッと肩を組まれた。
「あ、うん内野……っ」
じぃっと覗き込まれてのけぞった。
顔近っっ
内野が「ふんっ」て笑う。
「でっかい目玉だなぁ、相変わらず」
そんなことを言って、僕の肩をしっかり抱いて内野が歩き始めた。
まあ、これなら絶対中には入れるけど。でもなんか……
あ……っ
体育館の前、逆光になってる背の高いシルエット。
秋川先輩……だ……っ
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