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 一瞬目が合った。  でもすぐに先輩のクラスメイトと思われる人が秋川先輩に声をかけて連れて行った。  ちょっと顔、いつもと違った。なんか……、ムッとしてた。  胸の奥がきゅうっと(しぼ)んでいくような感じがする。  どうして……?  内野に肩を組まれてなかったら、足が止まってたと思う。内野は普段よりしっかりと僕の肩に腕を回して歩いてる。  体育館の中に入ったら、もうなんとなく2−1と1−4の生徒が奥と手前に分かれて集まってて、僕たちも1−4がいる入口から近いコートの脇に進んだ。  他の競技は全部負けちゃってるから、1−4はほとんど全員集まってる。ていうか、いない人はどこに行ったんだろ。 「じゃ、保科。応援頼むな?」  内野がまた僕を覗き込むようにして言って、やっと僕から腕を離してコートに入っていった。  秋川先輩も、いる。    あ  コートの中で今……、秋川先輩と内野、見合った、よね?  ……ていうかなんか…… 「火花、見えなかった?今。内野くんと秋川先輩」  眞美ちゃんが僕の腕を揺らしながら言う。 「……う…ん……」  見えた…気がした。僕も……。  1−4、2−1両チームが整列してゲームが始まった。  うちのジャンプボールは今回も内野だ。  でも今度は相手も背が高くてパワーもあって、さっきまでみたいにボールを弾くことはできなかった。  2人の手からこぼれ落ちるように落下しかけたボールを、秋川先輩がサッと取ってパスを出した。もらった人が少しドリブルで進んで、またすぐパスをする。それを内野たちが追いかけてるけど追いつけてない。  秋川先輩にボールが回った。先輩はタンタンッとリズムよくジャンプした。  僕には重いと思えるボールを片手で軽々と持ち上げて、まるでゴールリングに置いてくるみたいにフワッとゴールが決まった。  あっという間に2点入っちゃった。  タタンッと床に降り立った先輩がスッと背を伸ばした。  やっぱりすっごい格好いい……っ  1−4がスローインしたボールを、あのちょっとコワい先輩が簡単にカットして、またすぐにパスを回した。ボールを受け取ってドリブルしてる人に内野が向かっていくけど、ボールはするりと秋川先輩の手に渡った。  そのままタンッとジャンプしてシュパッとゴールが決まる。  3ポイントシュート!!  うわっと場内が盛り上がった。眞美ちゃんが僕のジャージの袖をぐいぐい引っ張る。 「カッコいー! カッコいー! ねー! 琳ちゃんっっ!!」  うん、うん、うんって頷きながら、目はずっと秋川先輩を追っている。  一瞬だって見逃したくない。  だってめちゃくちゃ格好いい!  うわっっ  目線、流れてきた……っ  動きが速すぎて反応できない。  何回も目が合っちゃう。  あ 笑……っ  キャーッて女の子たちが声を上げた。  僕は息を飲んだ。  ドキドキ ドキドキ ドキドキ  一歩も動いてないのに、全力で走ってるみたいに胸が苦しい。  不意に秋川先輩が走るのをやめて、前半が終わったのに気付いた。  ……ホイッスル、聞こえなかった。  秋川先輩がこっちの方に向きそうになったから目を逸らしたら、内野が僕たちの方に歩いてきていた。  眉間に皺、寄ってるし。 「……やばい。2−1、めっちゃ強ぇし……っ」  内野の声に口惜(くや)しさが滲んでる。 「んー、ね。秋川先輩と橘先輩がいるからねー、しょーがないよ」  眞美ちゃんが苦笑いを浮かべて内野を見上げた。  タチバナ先輩って、あのちょっとコワそうな先輩のことかな? あの先輩もバスケすっごい上手いし。秋川先輩を「貴之」って呼んでるから、きっと仲のいい友達なんだと思う。  ピピーッてホイッスルが鳴って、内野が「よし行くぞ!」ってみんなに声をかけてコートに出て行った。  その内野の背中越しに、秋川先輩が見えた。  
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