307人が本棚に入れています
本棚に追加
T 33
斉藤の力は分かってるし、ウチノくんの戦い方もだいたい分かったから、今度はもう少し注意して保科くんを見てみることにした。
ジャージの腹の辺りをぎゅっと握って真剣な目でコートの中を見ている保科くんの視線が、俺に付いてきてる。
気のせい、じゃない。
俺の周りに1−4の生徒がいてもいなくても、保科くんは俺の方に目を向けている。
「貴之!」
将大からのパスを受けて3ポイントラインからシュートを打った。練習通りの軌道を描いたボールが、スパッとゴールリングを通っていく。
あ……っ
かっわいーーーっ
笑ってる、保科くん。
あ、目ぇ逸らした。
保科くんがどんな気持ちで俺を見てるのかは分からないけれど、大きなカテゴリーで言えば好意なんだろうと思う。
とりあえず今は、それでいい。
存在を認識してもらえてて、しかも好印象なんて上々じゃないか。
ていうか、あんな怪しい声のかけ方しといて、怖がられたり煙たがられてないのが不思議なくらいだ。
ドリブルしてくるウチノくんの隙をついてボールをカットして将大にパスした。ウチノくんが口惜しそうに見上げてくる。将大がジャンプしてシュートを打った。
将大の放ったボールがゴールリングを通るのと、ゲーム終了のホイッスルが鳴るのが同時だった。
勝った。保科くんとウチノくんの1−4に。
整列しながら、ちらっと保科くんの方を見た。
あれ? 顔半分隠してる。
握り拳を鼻のあたりに当てて、俯き気味にこっちを見てる。
「あの子、ニコニコしながら貴之のこと見てるぞ」
「え……」
将大が俺の耳元でボソッと言って、ニヤッと笑った。
将大の視力は2.0。
「めっちゃ可愛い。お前にも見せてやりたい」
見たいよ
俺の視力は0.8を切ってる。
生活に支障はないって思ってたけど、最近完全に支障をきたしてる。
可愛い保科くんを、もっとはっきりと見たい。
「えー、次は5分後、2−1と3−5の対戦です。1−4の生徒は一旦出てくださーい」
あー……、保科くん……
細い身体が人波に飲まれていく。
最後に少し振り返った保科くんと目が合った、気がした。
Cグループの1位、3−5にはバスケ部の坂井部長がいてかなり手強くて、でも2点差で勝った。
「秋川と橘がおんなじクラスなのが間違いなんだよ」
と、坂井部長は眉を歪めて笑って言った。
「ははっ、優勝しちったな」
「な」
将大と顔を見合わせながら体育館を出ようとしていたら、入ってくる保科くんたちが見えた。この後は1−4と3−5の2位決定戦だ。
今回もウチノくんは保科くんの肩をしっかり抱いて歩いていた。
あ……
「あの子、また貴之のこと見てたな」
俺の耳元で将大がボソッと言った。
「ん……」
保科くんは、どんな気持ちで俺を見てるんだろう。
知りたい。保科くんの気持ちが。
もう少し、保科くんに近付きたい。
最初のコメントを投稿しよう!