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 斉藤の力は分かってるし、ウチノくんの戦い方もだいたい分かったから、今度はもう少し注意して保科くんを見てみることにした。  ジャージの腹の辺りをぎゅっと握って真剣な目でコートの中を見ている保科くんの視線が、俺に付いてきてる。  気のせい、じゃない。   俺の周りに1−4の生徒がいてもいなくても、保科くんは俺の方に目を向けている。 「貴之!」  将大からのパスを受けて3ポイントラインからシュートを打った。練習通りの軌道を描いたボールが、スパッとゴールリングを通っていく。  あ……っ  かっわいーーーっ  笑ってる、保科くん。  あ、目ぇ逸らした。  保科くんがどんな気持ちで俺を見てるのかは分からないけれど、大きなカテゴリーで言えば好意なんだろうと思う。  とりあえず今は、それでいい。  存在を認識してもらえてて、しかも好印象なんて上々じゃないか。  ていうか、あんな怪しい声のかけ方しといて、怖がられたり煙たがられてないのが不思議なくらいだ。  ドリブルしてくるウチノくんの隙をついてボールをカットして将大にパスした。ウチノくんが口惜しそうに見上げてくる。将大がジャンプしてシュートを打った。  将大の放ったボールがゴールリングを通るのと、ゲーム終了のホイッスルが鳴るのが同時だった。  勝った。保科くんとウチノくんの1−4に。  整列しながら、ちらっと保科くんの方を見た。  あれ? 顔半分隠してる。  握り拳を鼻のあたりに当てて、俯き気味にこっちを見てる。 「あの子、ニコニコしながら貴之のこと見てるぞ」 「え……」  将大が俺の耳元でボソッと言って、ニヤッと笑った。  将大の視力は2.0。 「めっちゃ可愛い。お前にも見せてやりたい」  見たいよ  俺の視力は0.8を切ってる。  生活に支障はないって思ってたけど、最近完全に支障をきたしてる。  可愛い保科くんを、もっとはっきりと見たい。 「えー、次は5分後、2−1と3−5の対戦です。1−4の生徒は一旦出てくださーい」  あー……、保科くん……  細い身体が人波に飲まれていく。  最後に少し振り返った保科くんと目が合った、気がした。  Cグループの1位、3−5にはバスケ部の坂井部長がいてかなり手強くて、でも2点差で勝った。 「秋川と橘がおんなじクラスなのが間違いなんだよ」  と、坂井部長は眉を歪めて笑って言った。 「ははっ、優勝しちったな」 「な」  将大と顔を見合わせながら体育館を出ようとしていたら、入ってくる保科くんたちが見えた。この後は1−4と3−5の2位決定戦だ。  今回もウチノくんは保科くんの肩をしっかり抱いて歩いていた。    あ…… 「あの子、また貴之のこと見てたな」  俺の耳元で将大がボソッと言った。 「ん……」  保科くんは、どんな気持ちで俺を見てるんだろう。  知りたい。保科くんの気持ちが。  もう少し、保科くんに近付きたい。
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