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 ホームマッチも終わって、日常が戻った木曜の放課後。 「秋川くん、おつかい行ってきて」  笹岡会長が小振りのポーチを振りながら言った。中には生徒会で使う備品なんかを買うためのお金が入っている。 「駅前の100円ショップでボールペンと付箋と、あと3個100円のゴツいチョコのお菓子、買ってきて」 「……メインはチョコですね?」  文房具なら購買にもある。 「やだ、分かっちゃった? お金はちゃんと払うわよ? 後で」 「あ、おれ何か惣菜系のパン」 「チョコチップクッキー買ってきてー」 「……はい、分かりました。行ってきます」  副会長、とか言ってもまあ、俺以外は全員3年なのでこんなもんである。 「レシート分けてね」 「承知してます」 「よろしい! 行ってらっしゃい」  ポーチとエコバッグをポケットに入れる。これも100円ショップの品物だ。  生徒会室を出て一つため息をついて、昇降口に向かった。  別に、駅前まで行くぐらいなんて事ないんだけど。  レシート分けるのが面倒なんだよなぁ。  まぁ本当に面倒なのはレジ打ってる店員なんだろうけど。 「あれー? 秋川くんどっか行くの?」 「ちょっとパシリ」 「えー? 生徒会も大変だねー」  そんなやり取りをしながら外に出た。  暑くなってきたなー、もうすぐ梅雨か。  雨は嫌いじゃないけど、何日も外を走れないと少しストレスが溜まる。  今日は部活がないから、帰ってから神社の階段でも昇ろうかな。  って、あ……っ  少し前を歩いている、細いシルエット。  保科くんだ、と思う。  少しスピードを上げて近付いていく。  あ、やっぱり……っ  グラウンドの方をちらっと見た横顔。  今日も可愛い。  グラウンドではサッカー部が部活をやってる。  ホームマッチの後、松岡に会ったら「まじでコテンパンだったな」って笑ってた。  内野尚悟くんはかなりイラついていたそうで、「ミニゲームやったら大活躍だったよ」って松岡は苦笑いしていた。  保科くんの足が、グラウンドの方に少しずつ寄っていってる。  見に行くのかな、サッカー部の練習、っていうか内野くんを。  ……それはなんか……  心の中がモヤッとした。睨んできた内野くんの目が脳裏を掠めた。  脚が勝手にスピードを上げる。あっという間に保科くんに追いついた。 「保科くん」  って呼び止めてどうするつもりだ俺っっ  ちょっとビクッとして振り返った保科くんが、あの丸くて可愛い仔猫みたいな大きな目で俺を見上げた。  あ、そうだっっ 「え…っと、ちょっと買い物、手伝ってもらえないかな? 時間あったらでいいんだけど」  怪しい。自分で言っといてなんだけどめちゃくちゃ怪しいぞ、俺。  ほら、保科くん困って…… 「は、はいっ、行きます……っ。どこ、ですか?」    え 「え…き前の100円ショップ…だけど、ほんとにいいの?」  ドキドキ ドキドキ ドキドキ  心臓が爆発しそうなほど高鳴って、自分の声がよく聞こえない。 「はい、…あの…ひま、なんで……」  うわ 可愛いっ
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