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 上目遣い、やばい。頬がふわっとピンクでめちゃくちゃ可愛い。  ごくりと唾を飲み込んで、ぐっと拳を握った。 「あの……荷物が多い、とかじゃなくてさ、レジ分けなきゃいけなくて……」  全校生徒の見ているステージの上で喋るよりもずっと緊張している。 「あ…ちょっと面倒…ていうか、2人の方が楽、ですよね」  よかった、通じた。 「そう…なんだ。だから誰かいないかなとか」  思ってなかったけどそういう事にして、保科くんと並んで駅へと歩き始めた。  将大は岡林と歩く時どうしてたっけと思いながら、少しスピードを落として車道側を歩く。 「生徒会で使う文房具とね、ついでにおやつを買いに行くんだけど、絶対おやつがメインなんだよね」 「あはは。校内でおやつは売ってないですもんね」  何を話したらいいかとか全然分からなくて、気ばっかり焦る。  大丈夫かな、俺。顔赤くなってないか?  時々俺を見上げながら歩いてる保科くんの頬は、ふわっとしたピンク色でほんとに可愛い。  もう100円ショップの派手な看板が見えてきた。徒歩10分なんてあっという間だ。 「あ、保科くんはカゴはいいよ。レジ前でボールペンと付箋渡すから、そのお会計してもらえる?」  入口でカゴを取りながらそう話しかけたら、保科くんは「はい」って頷いてて、その頭の動き方が可愛くて、つい顔が笑ってしまう。 「保科くんはこの店来る?」  俺の後ろを付いてきてる保科くんを振り返りながら訊いてみた。 「あ、はい。何回か……」  商品を棚から取る俺の手を、保科くんが見てる気がした。  本来の目的の文房具2つと、頼まれたお菓子類をカゴに入れていく。  あー、帰りたくない。このままずっと保科くんと一緒にいたい。  でももう買い物は終わってしまう。保科くんを引き止められるのはレジを済ませるところまで。店から出たらお別れだ。 「じゃあこの2つと220円ね。お願いします」 「はい」  指の細い手のひらに百円玉と十円玉を2つずつのせる時、少し手が触れた。  指先が熱くなる気がする。  俺が先に会計をして、品物をエコバッグに入れているところに、保科くんがとことこっと近付いてきた。かわいい。 「秋川先輩、これ……」  うわ、名前……っ  差し出してくれたボールペンと付箋とレシートを受け取ると、保科くんが少し笑った。  あぁもう可愛いなぁ! 「ありがとう、保科くん」  品物を全部エコバッグに入れて、密かにため息をついて出口に向けて歩き出した。保科くんが後ろを付いてくる。  あと2歩で出口。 「あ、あの……っ」 「ん?」  少し上擦って聞こえた高めの声。 「わ、忘れ物っ、しちゃったんで、僕も学校、戻ります……っ」 「あ…、う、うん。分かった……っ」  ドドドドッて忙しなく心臓が血液を運んでる。  俺、声変だった気がする。  別れのラインだと思っていた店の自動ドアを2人で出て、学校に向けて一緒に歩き始めた。  も、なんか足元ふわふわしてるし……っ 「あ、あのっ、バスケ部って見学…できるんですか?」 「え? あ、あ、うん。できるよ。上の、ほらキャットウォークに上がって……」  ちょっと今の上目遣いで質問、はヤバかった……っ  首筋から耳までどくどくいってる。  保科くんがキュッと唇を引き締めて笑った。  かっわいーーー……っっ
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