Rin     36

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Rin     36

 ウソ、ついちゃった。秋川先輩に。  忘れ物なんて、ほんとはしてない。  だってこんなこと、もうないかもしれない。  だからまだ、一緒にいたい。 「あ、あのっ、バスケ部って見学…できるんですか?」  思い切って訊いてみた。見に行ってる人がいっぱいいるのは知ってる。でもあれが許可されているものなのか、ほんとはダメなんだけど、なのかは知らない。ほんとはダメな場合、1年生が見に行くのはムリだと思う。  先輩によそ見しながら質問するのは失礼なんだろうと思って、必死の思いで秋川先輩を見上げて訊いた。顔、あっつい……っ  秋川先輩はちょっとびっくりした顔で僕を見た。 「え、あ、あ、うん。できるよ。上の、ほらキャットウォークに上がって……」  びっくりした顔のまま、秋川先輩が応えてくれる。  見に行っていいんだ! わーい!  ホームマッチの時、秋川先輩すっごい格好よかった。  って、あ、急にこんなこと訊いたから先輩びっくりさせちゃったんだった。  ドキドキしながら、ちょっと秋川先輩を見上げた。  あ、笑ってる。よかった。  でもなんか、笑顔いつもと違う気がする。 「ぜひ見に来て。うち、結構強いんだよ」 「はい……っ」  やったー! あとは体育館に入る勇気だけ。 「保科くんはバスケ見るの好き?」 「あ、はいっ、好き、になりました。……ホームマッチで……」  ていうか、秋川先輩が好きだから、好きになりました。  とはもちろん言えない。 「そっかぁ。えっと、内野くん、上手かったね、サッカー部なのに」 「あ、内野はスポーツは何でも上手いんです」 「ふーん、そうなんだ」  そんなユルい話をしながら学校への道を戻っている。  僕に合わせてくれてるのか秋川先輩の歩調はゆっくりだ。  ゆっくりだけど、100円ショップから学校まではせいぜい10分ちょっと。  少し前からもう校舎が見えている。  もうちょっとでお別れ…… 「保科くんありがとうね、手伝ってくれて」  秋川先輩が微笑みながら僕をちょっと覗き込んでくるからドキドキする。 「あ、いえ、ぜんぜん……っ」  心臓、破裂しそう……っっ  ドキドキ ドキドキ ドキドキ  心臓、おっきくなってる気がする。  秋川先輩がチラッチラッと僕を見た。 「あの…さ。よかったら、でいいんだけど……。また手伝ってもらえないかな、生徒会の仕事。仕事って言っても雑用になるんだけど……」  え? え、え、え……っ 「あ、ごめんね、変なこと言っ…」 「や、やります…っ」  秋川先輩がちょっと早口で喋る内容が想定外すぎて、理解するのに数秒かかった。 「ぼ、僕、帰宅部なんで……っ」  ていうか聞こえた内容が合ってるのかどうか自信ない。 「うわ、ほんとに? じゃ、あの……、連絡先交換、とか、……いい?」 「え…、あ、は、はいっ」  うわ、え、なに? 連絡先? 連絡先交換って言ったよね?!   ね? ね? ね?! 「あ、じゃあちょっとこっち……」  え、わ、わっ  秋川先輩が僕の背中に軽く手を添えて、歩道の端に誘導する。  その手のひらに胸のドキドキが伝わっちゃったらどうしようっ  秋川先輩がポケットからスマホを出すのを見て、僕も慌ててポケットを探った。
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