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「このアプリ入れてる?」  一番メジャーなメッセージアプリのアイコンを親指で示しながら、秋川先輩が言う。壁紙、星空。 「あ、はい……っ」  僕も急いでパスコードを入力するけど、慌てすぎて2回失敗してしまった。はずかし……っ 「ん? 猫飼ってるの? 保科くん」  僕の手元を見た秋川先輩が言った。  僕のスマホの壁紙は猫の写真だ。でも。 「いえ、地域猫なんです」 「へー、そうなんだ。猫好き?」  って僕に訊きながら、秋川先輩の親指がスマホの画面を滑る。 「はい」  手が大きいからスマホが小さく見える。 「うちね、猫飼ってるよ。白いのと黒いの」 「え?!」  ほら、って見せてくれたスマホに、白猫と黒猫が寄り添ってる画像。 「わー、かわいー」  次は白猫が黒猫に猫パンチしてるとこ。それからキャットタワーから見下ろしてくる2匹。 「白いのがミルクで黒いのがココア。小6の時、家に帰ってリビングのドア開けたら目の前を2匹が走り抜けて、すごいびっくりしたよ」 「え、飼うって知らなかったんですか?」 「母の友達んとこに仔猫が生まれたって話は聞いてたけどね。まさか飼うとは思ってなかった。しかも2匹いっぺんに」  笑いながら喋る秋川先輩の声が、表情が優しくて、もっともっと一緒にいたくなる。 「あ」  秋川先輩のスマホの画面にメッセージが届いた。 ーーまだかー? 「やべ、藤堂先輩だ」  先輩の指がササッと動いてメッセージアプリに移動する。  あ、ちょっと焦ってる。  軽く唇を噛んで、眉根を寄せてる顔も格好いい。 「ごめんね、保科くん。これ読み取ってもらっていい?」  差し出されたスマホの画面のQRコードを読み取る。  秋川先輩とオトモダチ……っっっ  信じらんない…… 「よしOK。手伝ってほしいこととかあったら連絡させてもらうね。あ、でも無理なら断ってくれて全然いいから」  ね、って笑いかけられて胸の中がキュンとなった。  好きです。秋川先輩。 「はい」  断んない、絶対。  先に入ってた予定蹴っ飛ばしてでも先輩の方に行く。 「じゃ、行こっか。ごめんね、ちょっとスピードアップ」  また背中に軽く手を添えられて、学校への道を歩き始めた。
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